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駄文ども  作者: 転寝猫
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皐月のことども

◎月●日

GW帰省した実家の階段で滑る。

マンション暮らしが長くなり、一日の中で階段を上り下りする生活をしていないせいであろうか、降りる足幅を完全に読み誤ったという。情けない話である。


そんなこんなで恨み言めいてくるが、昔ながらの家の階段というのは、なぜああも急なのだろうか。世のお年寄りは、日々あの急勾配を平然と上り下りしているのだから、かくしゃくとされているはずである。

よその家にお呼ばれの際など、廊下の突き当たりなどに急な階段があると、訳もなくわくわくしたりする。小さな階段を上がって、何があるのか確かめたい衝動にかられるが、なにぶんよその家ですし。

ちなみに、最近リフォーム番組でよく見かける、階段下収納(段毎に引出しになっているもの)は、意外と昔からあるものらしい。京都旅行の際、どこかの寺で見たので間違いない。


過去に旅館をやっていた親戚があり、昔遊びに行くと、沢山部屋があって、それだけで興奮するものだったが、親に

「子供たちは二階で遊んでなさい」

と言われると、これ幸いと階段を駆け上がり、いとこやはとこたちと、仄暗い二階の廊下をあちこち歩き回り、襖を開けまくり、探検したものである。


しかし、もっと頻繁に訪れる、母の実家の二階は、なんとなく怖かったという印象がある。

怖かった祖父の部屋があり、更に、子供心にどことなく気味が悪いと思っていた、モナリザが貼ってあったからであろうか。

また、一方では、階段を踏み外してはいけないからと言って、子供がひとりで階段を上ると、祖父にきつく叱られた。その体験が、『怖い』という心理と結びついてしまっているのかもしれない。


しかし、階段を慎重に下りるということは記憶から抜け落ちており、うっかりコケたという。

靴下を履いての階段落ちは、つるつる滑って止まらない(数段だが、踊場まで滑り落ちた)ので、注意が必要である。


◎月×日

最近、夜やたらと夢を見る。

しかも、恥ずかしながら拙作小説に関わるものが多い。

昨夜など、『十二神将演義』のキャラクターに纏わる夢を見た。しかしながら、多くの設定をひっくり返すような内容の上、詳細を記憶していないため、誠に遺憾ながら却下である。

とにかく、彼の薄幸度合いを更に十倍稀釈したような内容であったので、転寝は憂鬱な気持ちで目を覚ましたという。もう少し欲を出そうよ、と彼には主張したい。

とは言うものの、誰のお話かを伏せて、拙作へ読者を誘導しようという意図はない。淡い願望のみである。


◎月▲日 ところによりたつまき

我が家は無事であるが、テレビをつけて唖然とする。

『竜巻の予測は困難だ』と聞いたことはあるが、そんなのはアメリカの大草原の小さな家とかに住んでいる人達の危惧であって、我が身に関わることとは予想だにしていなかった。これでは、怖くておちおち『オズの魔法使い』も読めない。日本はどこへ行くのであろうか。


◎月▷日 ところにより雷、雹などなど

どでかい雷の音がして、消防車が来た。落ちたのだろうか。

様子を見ようとベランダに出たら、ピカチュウの尻尾のような雷が見えた。

仰天し退却したが、ここ数日一番どっきりした。


TOEICの申し込みをしており、今月末試験であったことを思い出す。

ここ一番の追い込みが必要であろう。


◎月☆日 さつきばれ

フリーマーケットに出店してみる。

「いくら?」と奥様方に問われると、つい設定金額より百円引いた額を答えてしまう、小心者な転寝である。

急に暖かくなったこともあり、冬物はさっぱり売れなかった。残ったダウンは冬にGAPへ持って行けば、商品券の一枚も貰えるかもしれないので、持ち帰ることにした。

衣類リサイクルの置き場に運ぶため、残った衣類をビニールに詰めていると、

「あら?もう店じまいなの?袋の中のこれ、おいくらなの?え?もう捨てちゃうの!?勿体無いわぁ…じゃ、貰ってもいい?え、本当!?ありがとーだって勿体ないものねぇ、うれしいわぁ本当ありがとう!」

とおっしゃるmottainaiおばさんが現れ、袋を抱えてどこかへ行ってしまわれた。リサイクルの鑑である。


◎月▲日 はれ

『ペンギン現る』というニュースに仰天する。

なんと、彼はご存命だったのか。


皆さんは覚えておいでだろうか?数ヶ月前、葛西臨海水族園から、一匹の子ペンギンが脱走したことを。

そして、周囲の海で目撃され、タマちゃん的なフィーバーが沸き起こったことを。

ペンギン好きな転寝は、彼が無事に仲間のもとに帰れるやら、毎日心配でならなかった。やがて目撃情報は絶え、最悪の事態を想像すらした。

彼は温室育ちのお坊ちゃまである、やはり本物の自然には、越えられない厳しい壁が存在するのかもしれない。

そんなことを考えつつ、その1ヶ月ほど後、友人の結婚パーティーの為、舞浜でタクシーに乗ったときのことである。

「そういえば、この前水族園からペンギンが逃げましたよね?」

葛西にきらめく観覧車を眺めていたら、つい聞いてしまったのだった。

地元の方は、トラックにひかれたであるとか、カラスに襲われたであるとか、ニュースにならない生の情報をお持ちに違いない。目の前のこの海を、ペンギンが泳いでいるかもしれない…そんなファンタジーな夢を打ち壊す引き金を、自ら引いてしまったのだ。

が。

運転手さんは、こともなげに答えた。

「あーペンギンね。まだどっかそのへんで泳いでるんじゃないの?」

ペンギンと共存していることを、当たり前のように受け止めておられる地元の方の言葉に、『やっぱりペンギンはいるのだ』と、励まされる思いであった。


そんな矢先の、このニュースである。

彼は厳しい自然の中、たくましく生きているのだ。

可愛らしいペンギンの羽毛に秘めた強さに、筆者は感涙を禁じ得ない。


◎月○日 はれ

TOEICの勉強などしている。

やってもやっても正答率が上がらないのは、一体どういうことであろうか。

ほんの数回であるが、受験してみた経験から鑑みるに、TOEICで一番重要なのは『しんどくなっても最後まで投げない』ことである。


そうしつつ、執筆も進めている。

が、すぐにアップ出来ないものばかり書いているので、お見せ出来ず申し訳ない限りである。

書きたいものを書きたいように書いているのは間違いない。嗚呼主人公は何処。


◎月◆日 はれときどき雷雨

またやらかしてしまった。遅刻である。

とあるセミナーを予約していたのだが、ぼーっとして気づいたら、もう完全に手遅れであった。

先方は、快く別日に回してくださった。次回こそは必ず。


そういえば、『ドリランド』のTOKIOカードであるが、若干美化しすぎではなかろうか、特にリーダー。

電車の中吊りを見ていて、そんなことを思った。


◎月●○日 日食

朝の弱い転寝であるが、奇跡的にきちんと目が覚めた。

外へ出てみたところ、薄曇りの中からうっすら陽光が降り注いでおり、なんとも見思わせぶりな天候であった。

実家の方は雨だという、相当楽しみにしていた様子の母は不貞二度寝をしてしまったそうだ。

太陽を直接見てはいけないと、小学校の頃よりさんざん言われてきたにもかかわらず、長時間じゃなきゃ大丈夫だろ、とタカを括って観察(良い子は真似しないでください)。


暖かかった朝の爽やかな空気が、急激に低下する気配を感じ、空を見上げると、厚く垂れ込めた雲が一瞬薄くなり、その向こうに、世にも奇怪な黄金の輪が確認できた。

「わー、見えた見えた!」

「見た!?次(観察眼鏡)ママにも貸して!」

我々同様、パジャマ姿のまま路上に飛び出してきた家族が興奮して叫んでいる。

近くのマンションの、洗濯物の干された東向きのベランダからは、初老の夫婦が静かにその光景を眺めており、地上から、出張に出掛けるところらしい娘さんが、空を指差しながら、

「お父さんお母さん、あそこあそこ!見えた!?じゃ、行ってくるね!」

と叫び、手を振ってキャリーバッグを転がして足早に出掛けていった。


なんとまあ。

あれほど興味がなかったというのに、私はほとんど顔も合わせたことのない、近所の人達と、この珍しい景色を共有しているのだ。

金環日食それ自体も夢のような不思議な経験であったが、副次的に発生した一体感のようなものも、とても趣深いものであった。


夕食後散歩に出て、今朝日食を目撃した場所に立って、東の空を見上げてみた。日は落ち、星一つ見えない曇り空だった。

あの瞬間は、この道を包んだ静かな感動や興奮も含めて、もう、二度と巡ってこないのだ。

そう思うと、なんだかとても淋しくなった。


◎月⊿日 あめ

『文章読本』を読んでいる。谷崎潤一郎版のものである。

常々、よい文章を書けるようになるにはどうすればいいのか?転寝はこれでいいのか?という漠然とした疑問符が付きまとっていた中で、この本に出会い、大変感激した次第である。

あの谷崎潤一郎大先生が、直々に文章の書き方を語っておられるのである。ちなみに三島由紀夫もあるようだ。こんなありがたいものがあったとは、目から鱗である。


ちなみに、最近読んだ『ビジョナリーカンパニー』なるビジネス書も、起業家や企業人のため本であるのだが、人生とか小説を書くに当たっての心構えとして読んでも大変参考になるものであった。


◎月☆日 はれ

教授の還暦祝いに出向く。

転寝が大学生の頃、かわいらしい女子高生だったお嬢さんが、「社会人四年目なんですー営業で体育会系ですごい辛いんですー」とおっしゃっており、歳月の過ぎゆく速さに驚くも、お嬢さんは依然かわいらしいままであった。

卒業以来の先輩方も集まっておられ、かのプレイボーイもついにパパ…といった、時の重さもずっしり感じた次第である。

ドタキャン常習犯の同期は、開始三十分前に体調不良の為欠席の旨を連絡して来、「あいつはあいかわらずだな」「まじなってねぇ」といった非難を集めていた。

懐かしくも気を遣い、かつ愉しい集いであった。

ケーキを食べ損ねたのが、唯一の心残りである。


◎月♪日 はれ

中学の同級生がミニコンサートをやるというので、見に行く。


同級生はピアニストである。アマチュアであるが、かなりの腕である。中学一年の時分には、既にドビュッシーのアラベスクを鮮やかに弾きこなしていた。

朝早めに登校し、音楽室のグランドピアノで練習をするのが、彼女の日課であり、転寝は彼女の隣でドビュッシーを聴くのが好きだった。

ぴんと背筋を伸ばした彼女が、細い指を鍵盤上で軽やかに滑らせるさまは、朝の光に映えて大変うるわしかった。思わず見とれていると、

「気が散るから、あんまり見ないでくれない?」

と叱られたのも、今では良い思い出である。(振り返るに、我ながら若干変態である)

かつ、彼女はバイタリティがあった。

高校三年生の冬休み、開放された学校に皆が集ったのは、何も受験勉強のためではなく、お昼ごはん時に彼女が振る舞う、手作りブラウニー目当てであったことは否めない。

思えば、彼女は憧れの人であった。同級生に純粋な憧れを抱く、という感覚は、前にも後にも一度きりである。


そんな彼女が、音楽に纏わる仕事につき、多くの仲間を集めて開催したミニコンサートで披露したのは、なんとドビュッシーのアラベスクであった。

十余年の時を経て、彼女の奏でるアラベスクは変わらず美しかった。

懐かしさと感動のあまり、うっかりドビュッシー生誕150周年記念CD BOXをamazonでポチってしまったが、後悔はしていない。


◎月*日

ポンデライオンの小皿欲しさに、ミスタードーナツへ行く。

学生時代、友人とだべりながら氷コーヒーをちびちび溶かして飲むのが好きだったので、注文してみたところ、容器が半分ぐらいになっており、大変ショックを受けた。

思えば、マックフルーリーも小さくなった。食べごたえがあるのが良かったような、適量になり価格も下がって良かったような、複雑な気分である。

余談であるが、最近のミスドのCMは、もっと評価されてもよい。

『娘が彼氏と喧嘩したらしい   ちょっと嬉しい』は秀逸。

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