卯月のことども
●月◇日 強風
台風もかくやという風が吹いた、皆さん大丈夫でしたか。
一斉帰宅命令が下り、相方が普段では到底有り得ない時間に帰宅。
「何故『今帰るか、収まるまで働くか選べ』と言ってくれないのか」とぷつぷつ言いながらキーボードを叩く相方は、今時稀少な社畜、もとい企業戦士である。二十四時間戦えそうな気がする。
●月▶日 はれ
ひさびさに英会話に行く。
最近ランニングを始めた、びこーずあいげいんどうぇいと、と言ったところで自分の失言に気づく。
私の二倍ちかいボリュームの先生は、それでもにこやかに、そんなことないわよ、あなたより私のほうが必要だわ!と言ってくれた。心の広い女性である。
最近、炭酸飲料がないと生きていけない体になっている、ノーカロリーではあるが。
薬を飲むときくらいは、炭酸なしの水の方がよいのではないかと言われて、初めてその事実に気づいた次第である。
思えば、昨年の繁忙期は、ペプシネックスを1日1リットル摂取していた。今やペプシネックスは身体が受けつけなくなり、専らコカコーラゼロである。
こないだ会った留学生の先輩が、レッドブルを絶賛していた。職場の同僚が、机にレッドブルの空き缶でバリケードを作り、上司に激怒されたことなどを思い出した。
そろそろ、復帰に向けて帆を揚げるべきである。
しかしその前に、一度新人賞というものに応募してみよう、と決心。思えば電撃大賞は締め切りまであと一週間である。
今『なろう』に投稿中のものを、体裁を整えて出してみよう。どうせひっかからないとは思うが、思い出作りである。
●月◇日 はれ
人並に花見をし、人波に揉まれる。
さくらというのは、どうしてこう、日本人を浮かれさせるのだろうか。
たわわな実りの如し満開の花々で、景色はほのかにピンク色である。
浮かれに浮かれ、皇居を一周してしまった。
当然のことながら、皇居をぐるりと桜が囲んでいる訳ではない。
しかし、桜越しに見る社民党本部、桜越しに見る国会議事堂、桜越しに見るインド大使館の便乗カレー屋台、桜越しに光るたまねぎ…などなど、普段見られないものを見て、大変満足している次第である。
●月▼日 はれ
15km走れるようになった。調子に乗って飛ばしたところ、膝を痛めた次第。
何事もほどほどが大切ということである。
●月□日 くもり のち 雨風
『昔は良かった』と年寄は言う、年寄でない場合もあるが。
私見であるが、『先抜けしてよかった』。
一番遡ったところで、中学受験である。
田舎の分際で、転寝の地元は中学受験がさかんであった。一方で公立校思考も根強く、同じ模試を受けようものなら、互いのエリート意識がぶつかりあって火花を散らしたものである。
こんなことを申し述べては、だいたいの年齢がバレようというものであるが、転寝が小学六年生の頃は、私立の中学校によって受験日がバラバラであった。1月の末に肩慣らしの為の中学を受験し、2月上旬のラッシュ時は数日にわたって様々な中学に赴く(振り返ってみると、よくやったものである)。2月下旬に受験出来る中学もあるので、念には念を入れて、受けられる中学はすべて受けておく。そういった次第であった。
近年は、この受験日、だいたい一日に集中しているそうである。つまり、第一志望しか受けられないのだ。国公立専願という場合を除くと、大学受験より過酷である。
大学生時代に、中学受験をする少女達の勉強をみるバイトをしたことがあった。塾長はとてつもなく怖いおばちゃんで、自ら少女達を指導する姿は鬼女の如し、泣きながら筆算する少女達の親からよく苦情が出ないものだと密かに慄いたものだ。
「スピードよ、スピード!」
今でも、仕事や何やに追われていると、おばちゃんの声が脳裏に響く。
どうしてこのような回想に至ったかというと、茶店の隣に座っていたリクルートスーツの少女が気になって仕方がなかったのである。
まっとうな会社(我が社がまっとうでないというわけではない。入社時期が独特である為)に勤務している知人によると、『学生が就職活動ばかりして、研究が一向に進まない』という学術機関からのクレームにより、今年から各企業4月1日までリクルート活動を控える、という協定が組まれたのだそうだ。我々の時代も同じような理屈で、10月1日とか言っていた気がするが、それでもやはり学生は働かなかったものと見える。
その影響か、4月に入って、花見で賑わうのと前後して、街は真っ黒な髪に真っ黒なリクルートスーツの若者で溢れかえっている。
最終学年まで、進路が決まるどころか、スタートラインにも立てていない、というのは、非常に気の毒な話だ。おそらく、企業説明会の合間にエントリーシートを書いているのであろう、彼女の横顔には悲壮感すら漂っていた。
これによって、内定をいくつも持っててどれにしようかな~などという不届きな学生は減るわけであるが、企業側としても是非うちを『受けて』もらわねばならない、かつ、いい人材が欲しい。ということで、就職戦線は、今日の桜嵐の如く、熾烈を極めていると見受けられる。
初恋、二十歳、エトセトラエトセトラであるが、新卒というカードも一枚きりである。
転寝は、今より恵まれた就活環境にいながら、山のような企業数をダダ滑っていた頃、『このままでは転職すら出来ない』とぼんやり考えていた。
ということは、働くことが出来ないということか、このまま俺は一生ニートとして親の細い脛をかじり続けるのか、せっかく東京の大学まで出してもらって、何と親不孝なことかと、毎日ただただ己を呪った。『既卒でも就職出来る』という概念は、頭からすっぽり抜け落ちていた。幸い、奇特な会社に救われて、その状況を脱することが出来たわけだが。
リーマンショック、ソブリンショック、震災、タイの津波、記録的な円高…などなどを乗り越えて、やや上向いてきたという日本経済。
転寝のような想いをする学生が一人でも少なくなることを、切に願うものである。
●月⊿日 はれ のち ロケット発射失敗
急に暖かくなった。何を着てよいやら、箪笥をひっくり返し、病院の予約時刻に遅れる。
『ブラック・スワン 不確実性とリスクの本質』という本を読んでいる。図書館の本であり、顰蹙にも部屋の隅に置きっぱなしになっていたものであるが、先日図書館から催促電話があり、
「次にお読みになりたい方がいらっしゃいますので、お早めにご返却ください」
と言われ、他人が読みたがるということは面白いのではないか、読まずに返すのは勿体無いのではないか、と思い至ったものである。顰蹙も甚だしい、ごめんなさい。
トレーダーだった著者が、世の中に予想とか予測出来ることなんて、ありゃしねえんだよ!ということを、手を変え品を変え記述されている。転寝の理解度はそのレベルだが、目から鱗がボロボロ落ちる、誠に興味深い本である。
曰わく、人間には後付けで理由をつけたがる性質があり、偶然の産物にも何か原因を見つけなければ気が済まない、しかも、人間はそれを無意識にやってしまうという。
先ほどの遅刻に例えるならば、たまたま、あるいはいつものように、支度に手間取っただけなのに、それは気候が変わり、着るものに迷ったからだ、と理由をつけてしまうようなもの。で、よいのでしょうか、NNT氏。
しかしこれほど密度の濃い本を『エッセイ』と断言しておられる著者はすごい。これに比べたら小生など、チラシの裏紙レベルである。
NNT氏の爪の垢を煎じて飲み、次の方のために、一刻も早く本を返却しなければならない。
●月☆日 花散らしのあめ
旧友の結婚披露パーティへ赴く。
『雨降って地固まると申しまして』とか『本日は足下の悪い中、若い二人の門出にお集まりいただきまして』とか、雨の披露宴のスピーチあるあるを思いつつ、のろのろと支度をし、出掛ける。
結婚に必要な三つの袋って、よく聞く話だが、内容を覚えていないことに気づく。
何はともあれ、幸せになってくれよな、ともよ。
●月◆日 くもり
清涼飲料のコマーシャルで流れる、キャッチーな音楽を聞いて、相方がぽつりと呟いた。
「あ、いきものがかりだ」
自他共に認める音痴であるところの我が相方であるが、いきものがかりだけは判別出来るらしい。嵐もSMAPも、倖田來未も判らないのに、いきものがかりは判るのである。
当方、『SAKURA』以来のファンであったが、だいっきらいな上司が『吉岡がかわいすぎる』と発言したことにより、ややヒートダウンしたものである。
近年のいきものがかりの楽曲は大きく3つに大別されると考える。
1.じょいふる型:相方が判別可能な、ポップでキャッチー、各企業がCMにこぞってタイアップしたがる楽曲である。
2.エール型:シリアスな映画やドラマでタイアップされる、吉岡嬢の伸びやかな歌声が郷愁を誘う楽曲である。
3.HANABI型:アニソン系。NARUTOとかBLEACHとか、週刊少年誌的な燃える楽曲である。
転寝自身は、アルバム収録の『秋桜』的な、マイナー調の楽曲を好むため、カラオケに行っても歌えない(マニアックだから)という憂き目を見ることがままある。
吉岡嬢は大変声が良い。かつ、テクニックも超一流である。
一見(聴、というべきか)すると耳障りの良いメロディーラインであるが、歌おうとすると、非常に難易度の高いところで高音にジャンプするので、大変に歌いづらい。
こんなことを、周囲に熱説したところで、前述のキモい先輩と同レベル扱いされるリスクが高いので、ここに記すことにする。
なんのことはない、『NEWTRAL』が大変良い、というお話であった。
●月△日 あめ
転寝は、つけ麺について考える。
地元九州では、コテコテのとんこつスープに、麺がどっぷり浸かっているのが『ラーメン』であった。ちなみに、替え玉というのも、博多に限った習慣ではないかと思われる。
つけ麺は、思うに、ラーメンの兄弟分であるが、九州では一度も目撃したことがない。
転寝初めてのつけ麺体験は、かの有名な大勝軒本店であった。
大学一年の、まだ初々しい、裸足の十代であった頃、『せっかく東京出てきたんだし、有名なラーメン屋巡りしようぜ』という流れに乗って、私鉄から山手線に乗り換え、ドキドキしながら池袋にて下車した。
見ると、古びた建物の周囲を、スーツ姿の中年サラリーマンから我々のような暇な若者まで、沢山の人がぐるりと囲んでいた。一瞬怯んだが、せっかくここまで来たんだし、授業サボっても平気なこの時期じゃないと来れないかもよ、ということになって、列の最後尾についた我々。
正確な時間は覚えていないが、やっと店内に入れた時には足が棒になっており、喉がカラカラで、そんな我々をあざ笑うかのように店の周りには自販機が林立していたことだけは記憶している。
「うち初めて!?じゃあ、ちょっと少ないくらいに思って注文した方がいいよ!うち大盛りだから!!!」
呵々と笑うおっちゃん(思えば、あれが名物の店長さんなのであった)のアドバイスに従ったものの、食べれども食べれども麺は減らず、大変苦しい思いをした。
あの頃は、魚介ダシがまだ舌に馴染まない頃で、なんだかすっぱいしょっぱいスープだなぁと思いつつ、やはり地元のラーメンが一番!という思いを新たにしたのだった。
先日、福岡出身の先輩に、博多ラーメンよりうちの地元の方がラーメンは美味しい、と口答えしたところ、
「あーそれね!九州の人はみーんなそう言うよね!?熊本の人は熊本ラーメン、鹿児島の人は鹿児島ラーメンって!」
王者の貫禄に、返す言葉も無かった。
すっかり東京の馬鹿野郎に染まり染まった転寝の舌に、TETSUのつけ麺は大変美味であった。だがやはり、地元のラーメンが一番なのである。
●月✕日 くもり時々あめ
自他共に認める愚痴ラーの先輩と飯を食う。というか、ゴチになる。ご馳走様です。
最近外出が億劫で、ひきこもることこの上ないが、
『出ようと思えばいつでも出れるけど、出ないんだぜぇ~ ワイルドだろぉ~?』
と、スギちゃんのようなことを思っていた。
しかし、先輩の愚痴を四時間にわたり聞いていたら、本当に外に出られなくなり、大変大変困っている。外出すると、顎の痩せた男が、皆パワハラ上司に見えて、病気じゃなかろうかと思う次第。思うに、悪化している。
とはいえ、産業医面談でお墨付きをもらえば、定時に上がれるからと言って、メンタルは健康なのに、産業医に会って、毎日ニコニコ定時上がりを実践している先輩が、一番ワイルドだという話である。
●月※日 あめ
医者に行くも、撃沈。潜伏期間はまだまだ続く。
周囲もいい加減呆れかえっている模様である。
一刻も早く、ニートまっしぐらのお先真っ暗状態を抜け出せるよう、褌を締め直す所存である。
●月☆日 はれ
実家から上京した弟妹の観光に付き合う。
世間はGWに突入し、都内の人出はだいぶ減った気配であるが、木更津アウトレット、ジーユー銀座、渋谷ヒカリエ、東京駅おかし王国などの、局所的に人の集中しているところを巡ることとなり、消耗の激しい今日この頃である。
一番インパクトが大きかった出来事は、大阪のアンテナショップより、沖縄のアンテナショップのほうが数倍面白かったことであった。