夜は明けて
「陛下。西の部屋の御客人の姿が見当たらないと、女官たちが」
翌朝、朝儀に出ようと支度する南王の元へ、近衛が飛び込んできた。
「ええ、わかってるわ」
「は……もうご存知でしたか」
朝儀の為に袿の上に、緋の衣を羽織りながら、侍従から扇を受け取る。
「陽山へ帰られたのでしょう。いいわ、いつものように掃除を、と伝えて頂戴」
は、と短く応えて、近衛は立ち上がる。
「ところで、ルーユウ」
呼びとめられて、近衛の男は足を止める。
「何でしょう、陛下」
「私ね、今、着替え中だったのだけれど」
ぴしり、と締められていた顔が、見てわかるほどに赤くなり、近衛は謝罪の言葉を述べながら、逃げるように王の居室を出ていった。小さく笑い、南王は、侍従達に下がるように伝えた。
「ランファ、ランファ、もう大丈夫かの?」
居室の奥から、少年が顔を出す。大丈夫よ、と応えて、南王は問うた。
「どうしたの? 朝早くから来るなんて」
「姉上の絵師に直させた絵だがの、面白いことになっておるぞ」
「本当に?」
朝儀までは、もう少し時間があるか。朱雀に手を引かれ、南王は客人を入れた応接間に入った。奥に置かれた古い衝立に二人で近寄って、顔を見合わせた。
朱塗りの衝立の、改められたばかりの画を見て、微笑む。
「初めの画と、全然違うじゃない」
そこに描かれているのは、花鳥風月を描いているとて、それまでの画とは全く違う構図と色合い。花が咲き、鳥の歌う王宮の庭に、美しき少女と男とが寄り添い描かれる、何とも見事な絵だったのだ。