【第12話】撃ち抜けスナイパー
「ここなら他の生徒の目に触れることはないね」
旧修練場の木陰に腰を下ろしたカイルに、アルノはにっこりと微笑みかけた。
「全部弾いちゃうなら、一箇所だけ魔法を受け入れる『穴』を作ればいいじゃないか」
「穴、だと?」
「そう。カイル、ちょっと胸を張って」
アルノはダミーのグローブを外し、カイルの胸のど真ん中、頑丈な金属製の胸当てに指先を這わせた。
キュインッ!!
微かなキャスト音と共に、アルノの五本の指が、まるでピアノの鍵盤を叩くように軽やかに胸当ての上を滑る。
「えっ……お前、オレの鎧に何をした?」
カイルが目を丸くしている間にも、硬い金属の表面に、うっすらとルーンが浮かび上がる。
アルノが指を離すと、カイルの胸のど真ん中には、直径3センチほどの精緻な模様が一つだけ刻まれていた。
「……おい、これ。どう見てもダーツの的じゃねえか」
「ふふっ、カイル君、君はこれから的になるんだよ」
アルノはちょっと悪そうに笑い、その的をトントンと指でこづいた。
「これは『レシーバー(受信陣)』。カイルの絶対魔力耐性を、この3センチの範囲だけ減衰させて魔法を受け入れるようにする極小のデバフ領域さ。ここを狙えば、回復魔法は通るよ」
「なっ……!デバフ領域って、そんなことできるのか!?」
「本来なら背中や腕の内側、膝裏とか、敵の死角になる場所にいくつか刻んで、戦いながら打ち込めるようにできればいいんだけど、まずは一番当てやすい真正面からテストしよう」
「いやいや、待てよ」
カイルは慌てて突っ込んだ。
「いくら3センチとはいえ、激しく動く戦闘中に、こんな小さな的を狙って魔法を当てられる奴なんて、そうそういるわけないだろう!」
「いるわよ、ここに!」
自信に満ちた声が聞こえる方へ振り返れば、15メートルほど離れたところから、ミラがこちらに杖の先を向けている。
ミラはあれ以降、アタッチメント(余剰魔力排出陣)付きの杖をめきめきと使いこなし、今ではAクラスの生徒にもひけをとらない正確性を身に着けていた。
「ワタシが、その的のど真ん中を撃ち抜いてあげる」
ミラの木杖の柄に刻まれた極小ルーンの唐草模様が、エーテルの流れに反応して淡く発光し始める。
アタッチメントによって過剰な魔力が光の粒子となって排出され、杖の先端には極限まで圧縮された回復魔法の光が形作られていく。
その見事な魔力制御は、以前暴発を繰り返していた彼女とは、まるで別人のようだった。
しかし、的となるカイルの顔は完全に引きつっていた。
「お、おいミラ……それは本当に回復魔法だよな?この前の壁みたいに、胸当てごとオレの身体に穴が空いたりしないよな!?」
魔法耐性があるとはいえ、あの大暴発を間近で見ていたカイルにとって、ミラの魔法をわざわざ胸のど真ん中の「弱点」に受けるのは恐怖でしかなかった。
「失礼ね!今のワタシなら針の穴だって通せるわよ!……たぶん。ちょっとじっとしてて!」
「おまえ今たぶんって言っただろっ!いや、やっぱり怖いって!待て、待てえええっ!」
「待たないっ!……ヒール・バレット!!」
カイルの情けない悲鳴を置き去りにして、ミラは杖を振り抜いた。
フォンッ!!
空気を押し出す様な音と共に放たれたのは、細く、どこまでも真っ直ぐに伸びる優しい緑色の光だった。




