異世界転移しかけたけど間違われた話
掲載日:2026/04/29
ドアを閉める。ヒールを脱ぐ。息を吐く。
今日もちゃんと戦った。
鏡に映る自分は、それなりに整っている。
努力の成果だ。そういうのは、裏切らない。
冷蔵庫を開ける。
セールのお惣菜。いつも通り。
プルタブを引く。
缶ビールが、軽く鳴く。
「はー……」
一口、いこうとした、そのとき。
目の前に、光。
「……え?」
空間が、割れる。
そこに、扉があった。
白くて、やけに神々しい。
「え、ちょっと待って」
心臓が跳ねる。
「ついに? 私も?」
思わず立ち上がる。
缶を持ったまま。
「異世界……?」
扉が、少しだけ開く。
光の隙間から、何かが出てくる。
うさみみの女の子。
「……あ」
目が合う。
ほんの一瞬。
「あ、まちがえました。すみません」
ぱたん。
光が、消える。
沈黙。
しばらくして、
「……は?」
気づく。
床に広がるビール。
倒れた缶。
散らばったお惣菜。
そのまま立ち尽くす。
「……いや、ちょっと待って?」
誰もいない部屋で、声だけが浮く。
「今の、なしってこと?」
答えはない。
ただ、ビールの匂いだけがする。
読んでくれてありがとうございます。




