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ご都合主義探偵 権三郎  作者: TT93
第四章
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四章 13-16

四章 13


 権三郎はブーメランを構えた次の瞬間、いきなりアジトの壁に向かって全力で走り出した。

 Aは面食らったように眉をひそめる。

「なんだ、奴は何を考えている?」

 四人はとりあえず銃口を壁の方へ向けたが、誰も引き金を引けない。


(まずはDだ。あの腕前、放っておくと厄介だ)


 権三郎は壁際で高く跳躍し、そのまま壁を蹴って斜め上へと跳び上がった。

「――第一射!」

 空中で身体をひねり、勢いよくゴンザブーメランを放つ。回転する刃はDの手元めがけて一直線に飛んだ。


「うわっ!?」

 いつも冷静なDが、思わず情けない声を上げた。次の瞬間、麻酔銃の銃身が真ん中からスパッと切断される。

 Dは半分になった銃を見つめ、唖然としたまま手を震わせていた。


 ブーメランは軌道を描いて戻り、権三郎の手に吸い込まれるように帰還した。

「お前からは威嚇射撃を頂いたからな。まずはお返しだ」

 ブーメランを腰に当てると、金属スーツに磁石のようにピタリと吸着した。


「この野郎ッ!」

 Cが引き金を引こうとした瞬間、権三郎は地面に手をついてクルリと前方にハンドスプリング。

 バシュッ、と麻酔弾が発射されるが、アーマードスーツの脚部で弾かれて地面に転がる。

「クソッ!」Cが悔しげに歯噛みする。麻酔銃は連射できない。


 権三郎は間髪入れずブーメランを構え、後ろ手に投げ放った。

「――二射目!」

 低空を滑るように飛ぶブーメランが、Cの足元で突然跳ね上がり、真下から銃身を斬り裂いた。


「おわあっ!?」

 尻餅をついたCの姿に、Bが目を剥く。

「なんだあの動き……ありえねえ」

 Dも険しい顔で呟いた。

「物理法則、どこいったんですか」


 戻ってきたブーメランを受け取りながら、権三郎はニヤリ。

「言っただろ。『追尾式』だって」

「ふざけんなよ! そんなの反則だ!」とBが怒鳴る。

「反則? お前らに言われたくねえなぁ」


「D、C、下がれ!」とAの怒声が飛んだ。

「流れ弾で眠らされたら目も当てられん!」

 二人は顔を引きつらせながら後退した。


 Bは距離を取ることに決め、ジープ側――つまりドアから遠い位置へと移動する。

「アニキ、あれはヤベえっす! 俺は離れたとこから狙いま――」

 しかし麻酔銃の射程は短い。二十メートルも離れると、命中精度は落ちる。

 一方Aはドア付近で微動だにせず、じっと権三郎の首元を狙っていた。


(チッ、挟まれたか。厄介だな)

 片方だけなら頭部をスーツで防げるが、両方向から撃たれたら避けきれない。

(こうなりゃ勘に頼るしかねえ……よし、Aだ)


 そう判断した権三郎――だが、走り出したのはなぜかBの方だった。

「むっ、こっちに来た!?」Bの顔が強張る。

 だがAはニヤリと笑った。

(かかったな、銀ピカ。今度こそ仕留める)


 その瞬間、権三郎は急速に腰を落とし、反動で空中に舞い上がる。

「――第三射は、貴様だ!」

 打ち下ろしの軌道で飛んだブーメランは、まるでフォークボールのように急降下し、Aの麻酔銃を真っ二つに断ち切った。


「クソッ!!」

 Aは銃の残骸を地面に叩きつける。乾いた破裂音が響いた。


 権三郎は戻ったブーメランを受け止めるや否や、ハンドスプリングの連続で横方向に跳び、Bの射線をかいくぐる。

「くっ、これじゃ狙いがつけられねえ!」

 Bは悪態をつきながら立ち竦む。


「カッコ悪いぜ、Bさんよ!」

 振り向きざまに、権三郎がサイドスローでブーメランを投げ放つ。

「――第四射!」


 一見、明後日の方向に飛んだように見えたブーメラン。

 Bは鼻で笑い、足を止めた。

「ハッ、ノーコンが……ん、なんだ!?」

 刹那、ブーメランが大きな弧を描いて旋回し、横合いからBの麻酔銃を切り裂いた。


「ホーミングは縦だけじゃねえんだよ!」

 権三郎の声が響く。


 Bは呆然としたまま、半壊した銃を見下ろす。

「なんだよこれ……反則にも程がある」


 こうして密猟班は、4丁の麻酔銃をすべて失った。

 だが、ゴンザブーメランも戻ってこない。

 見ると、Bの足元に落ちている。


 Bはニヤリとし、しゃがみ込んだ。

「へっ、今度はこっちの番だ」

「やめとけ、B。そこから離れろ」

「うるせえ! お前のオモチャ、ありがたく頂いてやる!」


 権三郎が静かに言う。

「そいつは試作品だ。三往復半で電池が切れる。でな――」

 Bの手が止まる。

「使用済みになると、一分後に……爆発する」


「はあ!? もっと早く言えぇっ!」


 Bが慌てて飛び退いた直後――

 ドォンッ!

 ブーメランは眩い閃光を放ち、木っ端微塵に吹き飛んだ。


 権三郎は目を細めて笑う。

「危ないところだったな。まあ、大きな葛籠にはえてしてお化けが入ってるもんさ」


 静まり返るアジトに、彼の軽口だけが響いた。


四章 14


 密猟班の麻酔銃作戦は、あえなく失敗に終わった。

 だが同時に、権三郎の遠距離武装・ゴンザブーメランも爆散。

 戦況は、再び振り出しに戻る。


「アニキ、どうします?」

 Dが尋ね、Cが項垂れた。

「もう、手がつけられねぇ……」


 爆風から命からがら逃げ延びたBが、息を荒げて叫ぶ。

「アニキ! こうなりゃ仕方ねぇ、もう殺っちまいやしょう!」


 Aはその提案を、即座に却下できなかった。

「……B。少しだけ考えさせろ」


 壁際に立て掛けられた自分の愛銃・M82と、隣に並ぶBのウィンチェスター。

 Aは二挺の銃を見比べながら、深く思考の海に沈んだ。

 仲間たちは黙って待つ。

 十数メートル離れた場所で、権三郎が腕を組み、静かに彼らを見つめていた。


「どうしたA、シンキングタイムかー?」

 権三郎ののんきな声が飛ぶ。


 その瞬間、アジトの西側の壁がシャッターのように開き、オレンジ色の作業着を着た数名が飛び出してきた。

 ――飼育班だった。


「ほう、非常口まで用意してたか」

 権三郎がつぶやく。


 飼育班は四人。木々の隙間を抜け、Bらのジープとは逆方向へと駆けていく。

 先頭の眼鏡の男が振り返りざまに叫んだ。

「リーダー、すみません! ここは職場放棄させていただきます!」


 Cが怒声を上げる。

「クソッ、アイツらも逃げやがる気か!」

 しかしAは淡々と答えた。

「いいさ。連中は戦闘員じゃねぇ。好きにさせろ」


「けどアニキ、あいつ医者でもあるんですよ。怪我人はどうすんです?」

「ざっと見たところ、大怪我してる奴はいなさそうだ。……可哀想だが、放っとくしかねぇな」

 Aはため息を漏らし、倒れた部下たちを見下ろした。


 その刹那――権三郎が動く。

 飼育班の逃走ルートへ向かって、稲妻のように駆け出した。


「アニキ、俺、偵察してきます!」

 Dが後を追う。

「深追いすんな。お前も丸腰だ!」


 飼育班に二十メートルまで迫った権三郎が、声を張り上げた。

「俺は非戦闘員でも容赦しねぇ! 止まれ!」

 しかし彼らは無視して走り続ける。


「情けねぇ連中だ……。よし、アレを使うか」

 権三郎は立ち止まり、ポケットから小石のような物体を取り出した。

 それを逃げる背中めがけて投げつける。


「狭範囲捕縛デバイス――スパイダー!」


 小石は空中で変形し、金属光沢の蜘蛛へと姿を変えた。

 スパイダーは逃亡者の上空で静止し、尻から白い物質を吐き出す。


「うわっ、なんだこれ!?」

 白い物質は瞬時に網状に変わり、二人の頭上へ覆いかぶさった。


「クソッ、破れねぇ!」

 もがけばもがくほど、網は粘着質に絡みつく。


 逃げ延びた残りの二人に、権三郎がもう一度小石を投げた。

「蜘蛛は一匹だけじゃねぇ!」

 二匹目のスパイダーが展開し、残りの二人も一網打尽となる。


「俺は往生際の悪い奴が嫌いでな」

 権三郎が蜘蛛たちに命じる。

「スパイダー、電気ショック!」


 ビリッと青白い閃光が走り、四人の男が一斉に悲鳴を上げた。

「おとなしくしてろ。網を破こうとすれば、もう一度ビリビリくるぞ!」


 蜘蛛メカが白い光を点滅させて応答する。

「じゃ、頼んだぜ、スパイダーども」

 権三郎は背を向け、再びアジトへと駆け戻った。


 Dは一部始終を見届け、Aのもとへ戻る。

「アニキ、飼育班、全員捕まりました」

 Aは頷き、苦笑を漏らす。

「もう驚かねぇ。……認めるしかねぇ、奴は怪物だ」


「どうやって捕まえた?」

「投げ網です。小型メカを投げつけて……一網打尽に」

「一発で決めたのか?」

「いえ、二投目です」

「なるほど、二網打尽ってわけか」


 Aが自分で言ってククッと笑う。

 Dは真剣な顔で続けた。

「あれ、電磁ネットですよ。中から悲鳴が聞こえました」

「そんな機能まで付いてやがるのか……厄介だな」

「スパイダー、って呼んでました」

「蜘蛛か。何つうか、そのまんまだな」

 Aがまた苦笑し、肩を竦める。


「アニキ、彼はまもなく戻ってきます。どうします?」

 Dの問いに、Aは静かに立ち上がった。

「B、ウィンチェスターをフル装填だ。C、ジープから銃を取ってこい!」


 Bは『了解!』と弾を込め、Cは外へ走る。

 Dも武器庫へ向かおうとした瞬間、Aが制した。


「待て、D」

「ど、どうしたんです?」


 AはDの肩を掴み、目を覗き込む。

「お前がヤツを撃て。……俺の代わりにだ」


 壁際のM82を取り、Dに押し付ける。

「この銃は再装填済みだ。いいか、ヒグマを逃がしたのはお前だ。だったら責任はお前が取れ」


 Dの瞳が大きく揺れた。


四章 15


 Dは、Aの命令に明らかに逡巡していた。 「アニキのM82は、僕には重すぎます。重量も、精神的にも……」

 だがAは取り合わず言った。

「お前、さっき軽々と扱ってたじゃねえか。わざと至近で外すくらいに」

「あの時は無性に腹が立ってて、勢いでやっただけです」

 Dは続けて懇願するように言う。

「僕にはルガーが一番しっくりきます。今はメンテ中で使えませんが、武器庫にはウィンチェスターの予備や、新人用に回すはずだったマーリンがありますし」

 Aは応えず、沈黙を保った。Dはさらに食い下がる。

「M82は対物向けの銃じゃないですか。あの威力はアニキだから使えるのであって、基本は猟銃向きじゃ……」

 それでもAは黙したままだった。

「猟銃なら僕は、あの探偵を倒せる自信があります。武器庫に行かせてください、急いで戻ります」

 Aは否定せず、むしろ静かに語り始める。

「時間はねえ。手短にな。昔話を一つしてやる」

 Aは少し遠い目で語る。自衛隊を経てボツワナ軍に参加することになり、その頃に密輸団からスカウトされたこと。入団後は象やサイなどの大物狩りを任されたこと。象牙や角の需要の高さゆえ、捕獲より屠殺をメインにこなしていた話。対物銃に馴れていた事情――そんな話を、切り出したのだ。

「だが、聞かせたいのはそういう話じゃねえ。」

 Aの声が変わった。

「ボツワナで、俺は自分を世界一の狙撃手だと信じてた。だがな、遥かに上のスナイパーがいた。マシーンみてえな奴で、俺は初めて負けを認めた。奴に鼻をへし折られたんだ」  

 Dは黙って聞く。

「オメェが銃を構えた時の眼付が、そいつに似てる」

「そんな……僕を買い被りすぎですよ」

 Dが目を逸らすと、Aは強く彼の頭を掴んで正面を向かせた。

「オメェの才能は認める。悔しいが、オメェの方が上だ。だから賭ける。あの探偵を倒せるのは、オメェしかいねえ」  

 なおもDが躊躇するのを見て、Aは説得を重ねる。

「重さがキツけりゃ土嚢でも抱えろ。BとCはお前のサポートに回す。陽動で探偵の動きを鈍らせ、隙が出来たところで、お前の一発で頭を狙え」

 そして肩を揺さぶるように強く言い放った。


 Dはやっと我に返った顔つきになる。 「アニキ……あの探偵を殺すって決めたんですね?」

「ああ。もうそれ以外に手はねえ」

「アニキは、僕に人を殺せと――」

「そうだ。だが黙って一人で背負わせるつもりはねえ。連帯責任だ」

 Dは問いを続ける。

「本当に殺さないと駄目なんですか?」

「あの防弾スーツに加えて、麻酔銃まで破壊された。殺す以外に止める手段が考えられるか?」

 沈黙の後、Dは小さく首を振る。

「たぶん、無理でしょうね」

 Aは静かに頷いた。

「ここまで来たら後には引けん。だが、探偵を殺したらこのアジトは放棄するつもりだ」

「えっ、本当ですか?」

「マンパワーもない。応援が来たところで一日二日じゃ無理だ。逃げ切れれば御の字、再建は後の話だ」

 その言葉に、Dは打ちのめされたように唇をゆがめた。

「選択肢なんてねえんだ。D、覚悟を決めろ」


 そのとき、Cが自分のレミントンを肩に抱えて戻ってきた。

「アニキ、お待たせ。スペア弾、中々見つからなかったんですわ。移動中にリュックから零れてたみてえで」

 続いてBも弾薬箱を抱えてやって来た。全員が揃うと、Aは改まった声で最終通達を下す。

「いよいよ決戦だ。これから最後の作戦を伝える。耳かっぽじって聞け!」


 一方、権三郎は林の陰でメデューサと最後の詰めをしていた。

「飼育班の確保でタイムロスしたが、いよいよ最終ミッションに移る」

『了解です』

「密猟班の中に、オリンピック級の凄腕が一人いる。陽動もある。リスクは高い」

『最大の脅威は、若い男ですね?』

「そうだ。リーダーも強いが、あの若者が問題だ。俺はそいつを最重視する」

『具体案は?』

「切り札を使う。今回はほぼ確実に“アレ”を出す。発動時のターゲット補正だけ、お前に頼みたい」

『承知しました。フルオートで対応します』

「よし、行くぞ。無事に尋問ターンまで持ち込めたら、改めて頼む」

『ご武運を』

 ピンマイクを切ると、権三郎は密猟班の待つ広場へ駆け出した。


四章 16


 権三郎はアジト前の広場へと駆け込む。時刻は17時58分。日はほとんど落ちかけ、鬱蒼とした樹影が視界を奪う。視認性が落ちる前に決着をつけねばならない。


「戻ったぜ! さあ勝負だ!」


 広場に着くと、想像していた構図とはだいぶ違った。左右に十数メートルほど離れて構えるBとCの猟銃。さらにその後方、四十メートルほど下がった位置で、対物ライフルM82を担いでいるのは――AではなくDだった。彼の背には袋のような物が背負われ、Aはもっと後方から静観している。Aが武器を持っているかは不明だ。


「死ねえ!」「ここがテメェの墓場だ!」


 BとCが同時に引き金を絞る。権三郎は反射的に前転して初弾をかわす。予想通り、狙いは頭部だ。薬莢が飛び、二人が再装填する隙を突いて、権三郎は倒れた警備員たちを飛び越え、中央へダッシュする。狙いは最大の脅威、Dを叩くことだ。


 Dは荷物の重さのせいか動きが鈍い。後ろへヨロヨロと下がるばかりだ。


「B、C、しっかり援護しろ!」


 Aの檄が飛ぶ。


「分かってまさぁ、オヤビン!」


 Bのウィンチェスターが火を噴く。権三郎は横に飛んで弾を弾く——弾は足に当たって弾かれた。続けてCのレミントンが炸裂。権三郎は咄嗟に頭を沈め、背で弾を受け流す。


 カチリ、と次弾を装填する音。ボルトアクションが連射のリズムを作る。Aの声が鋭く響く。


「B、C! もっと距離を詰めて挟み撃ちにしろ! その程度じゃヤツを翻弄できんぞ!」


 BとCは顔を見合わせ、銃を抱え走り出す。左右から挟むつもりだ。権三郎は的を絞らせぬよう前傾でジグザグに動き、Dへと接近する。だが次の瞬間、目の前の土が盛大に跳ね上がった——足元近くに着弾したのだ。


 振り向くと、走りながらボルトを操作するBの姿。逆側を見ると、Cも同様の挙動をしている。どうやら彼らは頭だけでなく足元を潰すことも狙っているらしい。


 一方、Dは銃と土嚢の重量に難儀していた。堪えかねて背の土嚢を放り投げる。


(よし、だいぶ楽になった)


 探偵はBとCの波状攻撃に撹乱されていた。Dはその隙をつき、探偵と距離を取るため小走りで後退する。


(この銃は接射には向かない。ある程度の距離が必要だ)


 BとCは探偵の両サイド、真横のラインまで追いつき、執拗に足元を狙い撃つ。バァン、バァンと銃声が響き、土煙と硝煙が舞う。


 Aの声が飛ぶ。

「いいぞお前ら、その調子で適度な間隔を保て。絶対にひとまとまりになるな!」


 先の作戦会議で、探偵が投擲網を持っている可能性が伝わっていた。ゆえに三角陣形を崩さず、まとまらないのが基本戦術だ。


(Bさん、Cさん、頼みます……!)

 Dは自身の腕力にあまり自信はない。先のM82の立射はアドレナリンの賜物だった。ズッシリ肩に来る反動を考えると、ここは膝射が妥当と判断する。ある程度距離を取ったのち、Dは片膝を立ててM82を据える。


 腕が小刻みに震える。姿勢が安定しない。だが、ついにスコープの十字が探偵の眉間を捉える瞬間が来る。


「今だ!!」


 Dが引き金を絞った。強烈な反動が上半身を弾き、炸裂音が轟く。だが弾道はわずかに逸れ、百メートル先の木の枝をへし折る。Dは唇を噛み、深い息を吐く。腕が痺れ、煙と土埃が視界を狂わせる。連射は無理だと判断し、ショルダーストラップを直し、後方へ下がる。


 無言で見守るA。だがその胸中は複雑だ——Dが外した瞬間には舌打ちしそうになるも、すぐに己を叱咤する。


(たかが一発外しただけだ。ヤツに賭けたんだ、簡単に諦めるな)


 Aはジープへ素早く移動し、トランクを漁る。目当てのものを掴むと、Dのもとに走る。


「アニキ、すみません、外してしまいました」


「なんの、勝負はここからだ。D、土嚢の代わりにコイツを使え」


 差し出されたのは対物銃用の二脚。


「これならかなり軽い。反動も抑えられるはずだ」


「ありがとうございます、使わせてもらいます」


 Aは目を細め、助言を続ける。


「D、伏射だ。お前の能力を活かすにはそれしかない。チャンスは奴らが作ってくれる。次は外すなよ」


「はい、必ず仕留めてみせます」


 Dの瞳に決意の光が灯る。

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