四章 9-12
四章 9
密猟班のジープが砂煙を上げて停まった。
後ろから続く小型バスも急停止し、三人の男たちが飛び降りる。サブリーダーのB、相棒のC、そしてヒグマ脱走の責を負った若手のD。
「アニキ、いったい何が起こっ……!」
Bは言葉を失った。
警備班十名が地面に転がり、全員が手足を縛られ口にテープ。
ヘッドライトがその惨状を白々と照らしている。
「……電話で聞いてたけど、ここまでとは思わなかったっす」
Bの顔が引きつる。
「あの十号までが……」
Cも青ざめる。
ただ一人、Dだけが冷静に状況を見ていた。
「アニキ、やったのは――あの銀のスーツの男ですか?」
「恐らくな。直接は見ちゃいねえが」
Aが低く答える。
Bが吠える。
「テメェ刑事か? 何だその銀ピカスーツは、趣味がわりいにも程があんぞ!」
Cも続いた。
「おい銀ピカ、何でお前一人なんだ。仲間はどこだ!」
銀の男は首を傾げて答えた。
「仲間などいない。俺ひとりだ」
「ふざけんな! 一人でこんな真似できるか!」
男はため息をつく。
「ここに来てから、みんな同じ質問ばかりだ。一人で来ちゃ悪いって法律でもあるのか?」
挑発するような口ぶり。Cの顔が怒りで赤く染まる。
BがAへ振り返った。
「アニキ、何でコイツをほっといてるんです?」
Aは渋い顔をした。説明したくないが、逃げられない。
「B、実はな……」
「ライフル置いたままじゃねえすか。どういう……」
Dが割って入った。
「Bさん、恐らくアニキは警備班の全滅後にここへ戻られたんです。だから直接は撃っていない」
Cが頷く。
「そういうことか。確かにアニキのM82は威力がありすぎる。抑え撃ちには向かねえ」
Bも同意して苦笑する。
「撃ったら手足どころか胴体が飛びますもんね」
Aはため息をつき、ついに切り出した。
「お前ら、誤解してる」
「え?」
「俺は、あの銀ピカを撃った。何発も。首から下にな」
沈黙。三人の目が大きく開かれた。
「……冗談はやめてくださいよ、アニキ」
「笑えねえっすよ」
「本当だ。あのスーツに弾丸は通じない」
「嘘っすよね!?」「バカな! あんなペラペラのスーツが……」
Aは黙って警備班の屍を指差した。
「こんな状況で、冗談を言えるか」
Bがジープへ走り、猟銃を引っつかむ。
「悪いっす、アニキ! 自分の目で確かめます!」
「B、やめろ!」
引き金が引かれ、炸裂音。
だが弾は銀の表面で弾かれ、乾いた音を立てて跳ねた。
「……マジかよ」
Aが静かに言う。
「言ったろ。M82でも通らない。お前のウィンチェスターじゃ玩具だ」
Bが膝をつき、Cは口を開けたまま動けない。
銀ピカの男が笑った。
「ようやく理解したか。いい反応だ」
その瞬間、Dが壁際のM82を掴み取る。
「すみません、アニキ」
「待て、D!」
銃声が轟いた。
弾丸は銀ピカの頬をかすめ、髪の束が舞う。
「わざと外しました。僕らを侮るな」
Dの声は冷たく研ぎ澄まされていた。
銀ピカが笑い、髪をかき上げる。
「おいおい、俺のロン毛、けっこう気に入ってたんだぜ? ヒグマ逃がした戦犯くん」
「なっ……どうしてそれを……」
Dの顔が凍る。
「まあいい。腕は本物だ。普段の大人しさとのギャップが最高だ」
銀ピカが肩をすくめる。
「アニキ、この男いったい……」
「D、もう撃つな。今のは不問にしてやる。だがこれ以上は許さん」
「了解です……」
Dは力なく銃を下ろした。
Aが全員に叫ぶ。
「いいか。こいつには協力者がいる。今は殺すな。捕らえて証拠を握り潰す!」
「でもコイツ、警察なんじゃ……」
「違う。本人は“探偵”だと名乗った。正体は謎の男Xってとこだ」
「じゃあ、俺たちで取り押さえる?」
Cの声に、Aはバスを指した。
「後ろの連中、出番だ。数で押せ」
「でも新人ばっかで……」
「数は力だ。行け!」
Aが腕を振り上げ、声を張り上げた。
「者共、であえ、であえぇぇ!!」
その響きは、まるで時代劇の悪代官の叫びのようだった。
四章 10
アジトリーダーAの号令とともに、小型バスのドアが勢いよく開き、十五名ほどの男たちがぞろぞろと飛び出してきた。
全員がアーミールックの新兵たち。だが、手にしているのは腰の警棒だけで、銃や刃物は見当たらない。
「ハハッ、悪代官の掛け声そのままだな」
権三郎は苦笑すると、バスから降りてくる男たちを指で数えた。
ひい、ふう、みぃ――十五。
どいつも筋骨隆々、見るからにラグビー部上がりといった風貌だ。
(なるほど。数で押すつもりか)
耳に届くのは、AとBの会話だった。
『アニキ、あいつらにはまだ警棒しか渡してませんぜ』
『むしろ好都合だ。どうせ奴に打撃は効かん。抑え込めりゃそれでいい』
『連中、ラグビーとか柔道の経験者らしいっす』
『上等だ』
Aは拡声器を構え、怒鳴る。
「者ども、あの銀ピカを押さえ込め! 打撃は不要だ、タックルで倒して押しくら饅頭の要領で潰せ!」
(やれやれ、数で押すのか。だが――新人風情にロッドを使うのは性に合わん)
権三郎は取りかけた警棒をポケットへ戻し、ピンマイクへ指令を送った。
「メデューサ、ホークアイをアクティブに。今回は“アレ”を使え。指揮は任せる」
『了解しました。ただし、共闘はプライドが許さないのですね?』
「当然だ。俺がピンチの時だけ援護しろ。新人相手に兵器を使えばS級探偵の名折れだ」
『承知しました』
通信を切ると、権三郎はわずかに腰を落とし、前傾姿勢を取る。
一羽の鳥が舞い降り、近くの枝に止まった。目がエメラルドグリーンに輝いている――ホークアイだ。
「いざという時は頼むぜ」
権三郎が視線を送ると、ホークアイは無言で頷いた。
ドドドドッ――地鳴りのような足音。
十五人の新人警備員が一斉に駆け出した。
先頭の大男が低姿勢で突っ込む。タックルだ。
瞬間、権三郎の身体が宙に舞った。
大男の背に軽やかに着地し、そのまま踏み台にして二段ジャンプ――。
「うおっ!?」
踏みつけられた大男は仰向けに倒れ、次の男が足を取られて前方に吹っ飛ぶ。
空中の権三郎は身体をひねり、三人目の延髄に回し蹴りを叩き込んだ。
ズン、と重い音が響き、男が沈む。
着地と同時に転がり、四人目の攻撃を紙一重でかわす。
『アイツ、本当に人間かよ……』
『ここは月面じゃねえぞ……』
BとCが呆然とつぶやく。
Aは苛立ったように拡声器を握りしめた。
「バカ共、一列になるな! 八方から囲め、囲めぇ!」
号令に応じ、警備員たちは再び散開。八人が八方から権三郎を包囲し、残る四人は警棒を構えて円陣の外側に控える。
「警棒組に伝える! 狙うのは首の裏だ! 強く叩きすぎるな、殺すなよ!」
四人が同時に頷いた。
包囲が完成する。
ホークアイの視界を通して戦況をモニターしていたメデューサが、軽く息を吐いた。
『エスイチゴウ、またスタンスティックを使わない……サポート側の苦労も察してほしいものですわ』
彼女の金の蛇髪がうねり、目が赤く輝き始める。
次の瞬間――。
『二段トランスフォーム、ホークアイ・バトルモード!』
緑の光が濃緑に変わる。
枝から飛び立ったホークアイの姿が空中で変形していく。嘴は鋭いピッケルに、翼は鋭利な刃に、脚は太く伸びて巨大な鉤爪を備えた。
機械の猛禽が咆哮し、戦場へ突っ込んだ。
四章 11
メデューサの指示が飛ぶ。
『ホークアイ、エスイチゴウは“援護”にこだわってます。彼のプライドを傷つけないよう、上手く立ち回ってください』
『クエッ!?』
ホークアイの疑問は、メデューサにはすぐに伝わった。「具体的には?」と言っているのだ。
『彼が動きを封じられそうな時、そして警棒を持った者に背後を取られた時──それを危機と見做します。攻撃はその瞬間に』
『クエッ!』
ホークアイが力強く鳴いた。「了解!」の合図だ。
『それまで低空で旋回して待機なさい』
指示を終えると、メデューサは再び監視を続ける。
『これで大丈夫でしょう。まったく、手のかかるご主人様ですわ』
八人の巨漢が一斉に権三郎へ雪崩れ込む。
「うおりゃーっ!」と叫ぶ者、無言で突進する者。だが全員に共通しているのは、筋骨隆々という一点だった。
権三郎はジャンプを封印する。──着地の隙を狙われるのを読んでの判断だ。
腰を落とし、矢のようなローキックを一人の脚に叩き込む。加速中の男はバランスを崩して吹っ飛び、包囲網に一瞬の綻びが生じた。
権三郎は前転でその隙を抜ける。残る七人は互いに衝突し、肩や頭をぶつけ合って自滅した。
「カスどもが! まんまとすり抜けられてんじゃねえか!」
Bが怒声を上げ、第二波が襲いかかる。警棒を構えた男達が突進。
「死ねぇっ!」
最初の一人が胸めがけて警棒を振り下ろした──。
パキィンッ!
鋼の音を立てて、警棒が真っ二つに折れた。
「なっ……!」
呆然とした男の側頭部に、権三郎のハイキックが炸裂する。倒れた男を見て、Cが怒鳴った。
「バカ野郎! そのスーツに打撃は効かねぇって言ったろ!」
警棒組はたちまち怯え、後退する。
だが、すぐにタックル要員が戻ってくる。権三郎は包囲が完成する前に右アッパーで一人の顎を砕き、続けざまに水面蹴りで一人を転ばせる。空いた隙を滑るように移動し、敵に再度のタックルの間を与えなかった。
観戦していたDが、ぽつりと呟く。
「アニキ、あの男の正体、どう思います?」
Aは短く沈黙したのち、低く答える。
「最初は公安かと思った。だが、あのスーツを見てからはSATか機動隊の試作品かと踏んだ」
「今は?」
「今は違う気がしてる。まず、単独行動にこだわる理由がわからねぇ。それに、あの身のこなしだ。軍人みてぇだろ」
「……海外の特殊部隊、ですか」
「そんなとこだ」
Aは不安げに戦況を見つめた。
「大丈夫ですよ、アニキ。いくら超人的でも同じ人間です。数で押せば一瞬の隙くらい──」
「……だといいがな」
戦いは続く。
権三郎は包囲されぬようジグザグに動き、敵を翻弄する。一人がヤケになって突っ込むと、足の裏で顔面を蹴り飛ばした。屈辱の一撃。
三人が同時にタックル。権三郎は前方の一人に飛び膝蹴りを入れ、体を反転して後方の男の喉にラリアット。続けざまに腕を掴み、テコを利かせて綺麗な弧を描く投げを決めた。
「今の、見たか?」
「ああ……投げが綺麗すぎる。合気道だな、ありゃ」
「マジかよ。あいつ、何者だ…」
「銀ピカの奴、全員仕留めちまうかもしれねぇ」
警備班の息は荒くなり、権三郎のスタミナはなお尽きない。
正面から突っ込んだ相手をレッグラリアートで吹き飛ばし、次の二人を大ジャンプで躱す。空中から逆Yの字蹴りを顔面に叩き込み、鼻血が飛ぶ。
巨漢が権三郎の手首を掴んで一本背負いを仕掛けるが、小外刈で足を崩し、股間に膝をぶち込む。
「強え……強すぎる」
Aが唸り、隣のDは上空を見上げた。
「アニキ、あの鳥……さっきから飛んでません?」
「ああ、なんだあれ。カラスじゃねぇな」
「トンビかもしれません」
Aは苛立ってライフルに手を伸ばした。
「目障りだ、撃ち落とすか」
「ダメです、アニキ! 無益な殺生はしない主義だって──」
「それは“利益にならねぇ殺生はしねぇ”って意味だ」
「お願いです、やめてください」
Dの勢いに押され、Aは手を引っ込めた。
「チッ……お前、優しい奴だな」
「そんなことは……」
「だがな、脱退は許さねぇ。もう戻れねぇんだよ」
「……分かってます」
その時、権三郎に初めて“危機”が訪れた。
巨漢が真正面から抱きつき、ベアハッグで締め上げたのだ。
「おい、今だ! 首を叩け!」
仲間が警棒を振り上げる──。
スパァン!
金属が裂ける音。警棒が根元から斬り飛ばされた。
「な、何だ!?」
「イテェッ!?」
抱きついていた男の肩に激痛が走る。振り返ると、そこにいたのは──鋼の鷹。
「おわぁっ!? なんだコイツ!」
鋭い爪が食い込み、男は悲鳴を上げる。
「ありがとよ、ホークアイ。助かったぜ」
権三郎は警棒男を一本背負いで投げ、指令を飛ばす。
「ホークアイ、一旦離れろ!」
鷹は肩から飛び立ち、別の男の腕に嘴を突き立てる。
「イデェッ! なんだこの鳥は!」
悲鳴が響く。権三郎は振り向きざまにベアハッグ男へ空手チョップ三連撃、続けざまにジャンピングニー。
巨体が地面に沈んだ。
Aが拡声器を掴み、怒鳴る。
「おい銀ピカ! 仲間はいねぇって言ってたじゃねぇか!」
権三郎は悪戯っぽく笑う。
「確かに“ひとり”だとは言ったぜ。……人間以外はノーカンだ」
ホークアイがクローを格納し、権三郎の肩に静かに舞い降りた。
四章 12
その時点で、まともに動ける警備員は六人ほどしか残っていなかった。
九人はすでに権三郎とホークアイの攻撃で、意識を失うか、辛うじて意識があっても身体は動かない。
残る六人も、見るからに士気が下がっている。
「おめぇら、ボーッと突っ立ってんじゃねえ! 六人いりゃまだ勝機はある、諦めんな!」
Bの怒号が響く。だがその声に従って動き出したのは、たった三人。残りの三人は完全に戦意を喪失していた。
「ホークアイ、もうお前の出番は終わりだ。ひとまず低空旋回しててくれ」
『クエッ』
ホークアイは短く鳴いて空に舞い上がる。
「クソッ、アイツらすっかりフヌケになりやがって」
Cが苛立たしげに呟いた。
再び突っ込んでくる三人の警備員——だが、その動きにはもはや覇気も戦術もない。形だけの突進だった。
一人目はローリングソバットで側頭部を撃ち抜かれ即昏倒。
二人目はジャンピングニーで鼻梁を砕かれ悶絶。
三人目はボディスラムで地面に叩きつけられ、立ち上がったところへ怒涛のコンビネーションブロー。
最後は正拳突きを鳩尾に受け、沈んだ。
「こ、こんな怪物に勝てるわけねえ!」
ついに棒立ち三人組の一人が、バスに向かって全力で逃げ出す。
「俺も無理だ!」「勘弁してください!」
残る二人も追いかけるように脱走した。
「クソッ、あいつら業界から永久追放だ!」
Bが怒鳴る。
「本部から消されるかもな」
Cが冷たく言い捨てた。
「アニキ、バスのタイヤ撃ち抜きますか?」
Dが壁際のライフルを見やりながら問う。
「ほっとけ。敵前逃亡するような奴の末路は知れてる」
Aは感情のない声で返した。
しかし——権三郎は容赦しなかった。
バスへと歩み寄り、スラックスのポケットから赤い警棒を抜き取る。
エンジンが掛かり、車が動き出した瞬間、権三郎が叫んだ。
「ゴンザブロッド、ジャベリンモード!」
棒の先端に三叉の刃が現れる。投げ放たれたロッドは一直線に右後輪へ突き刺さった。
「ボスッ」と鈍い音、バスが蛇行を始める。
瞬時にロッドは手元へ戻り、二撃目が左後輪を貫いた。
バスは完全に停止。中から悲鳴と怒号が漏れ出す。
「銀ピカの奴、飛び道具まで持ってやがったのか!」
「なぜ今まで出さなかった!?」
密猟班の面々が騒然とする。
権三郎は前面に回り込み、左右のタイヤをさらに貫き、最後にロッドでフロントガラスを豪快に叩き割った。
「D、武器庫から麻酔銃を四丁持ってこい。弾も込めてな」
Aの命令にDが目を見開く。
「まさか、あの男に……?」
「そうだ」
「人間に使えばショック死の危険があります!」
「並の人間なら、だ。だがヤツなら死なない。動きを封じた後で闇医者に昇圧剤を打たせればいい」
「せめて、中型獣用の弾に換装してもいいですか?」
「ダメだ。それじゃヤツを瞬時に無力化できる保障がねえ」
「……リスクが高すぎます」
「命令だ。逆らうことは許さん」
Dは渋々頷いた。
そのころ権三郎は、静かにバスのドアを蹴り開けた。
「大人しく出てこい。逃げ場はないぞ」
ゆっくりとドアが開き、五人の人間が姿を見せた。逃亡した警備員三名と、迷彩服・作業着の新人二人。
権三郎は一人ずつ拘束していく。流れるような手際で、わずか五分。全員をバスの床に転がした。
但し、作業着の者は唯一の女だったので、一応後部のロングシートに寝かせてやった。
「野外に放置しないだけありがたいと思え」
冷たい声を残して、彼はピンマイクに口を寄せる。
「メデューサ、いま何時だ?」
『17時43分です』
「あと三十分でケリをつける」
空はすでに橙から紺へと変わりつつあった。
『ホークアイのバッテリーが限界です。ダイレクト給電に切り替えますか?』
「いい、クローズさせろ。お前の負担も増えるからな」
『でも——』
「大丈夫だ。ここからは装備を全開にする。お前は見守っていろ」
『……承知しました。ホークアイ、お疲れさま。ゆっくりお眠りなさい』
ホークアイは地上に降り、光を失ってボール状に戻った。
権三郎は静かに歩き出す。待ち受けるのは、最後の敵——密猟班。
四人は間隔を空けて陣を張り、手にしているのは猟銃ではなく、異様なフォルムの銃だった。
「なるほど、そう来たか」
権三郎が呟く。麻酔銃だ。
「おう銀ピカ、あの鷹みてぇなロボットはどうした?」
「充電切れだ。今は眠ってる」
「ふん、素直な奴だな」
「つまり、怖ぇのは投げ槍だけってわけだ」
「こっちは四人。テメェに勝機はねえよ」
Aが銃身を横に向け、告げる。
「人間には強すぎる麻酔だ。だが、オメェなら死にはしねぇ」
「褒め言葉として受け取っとく」
「次に目を覚ました時は拷問タイムだ。覚悟しな」
「せいぜい眼には刺さらねぇようにしてやるよ」
「投降するなら今が最後のチャンスだ、探偵さん」
権三郎は薄笑いを浮かべ、ポケットから小さな“へ”字型の器具を取り出した。
「フッ、この首突っ込みたがりのゴンさんを甘く見るなよ」
それを胸の前に掲げて叫ぶ。
「追尾式投擲切断器——ゴンザ・ブーメラン!」
器具が瞬時に拡大し、権三郎の手に収まる。
「さあ、最終ラウンドの開始といこうか!」




