表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カコカンコ  作者: 飴玉
4/18

第3話「パワモチ」

どうやら次の目的地は西のようだ。

チョッパーとAKが並ぶ影が、朝日に長く伸びる。

走り出してすぐ、デデドンが不意に停止した。


小さなスズメの声がかすかに響く中、デデドンは顔を押さえ、光を避けるように肩を震わせてうずくまっていた。


「溶接面してるやん」


ハッと我に返りカゼキルが指をさし笑ってる。


──でも太陽ってこんなに眩しいんや...。

思わず俺も目を細める。デデドンの肩越しに差し込む朝日が、やけに痛く感じた。


胸の奥に妙なざわめきが広がる。

昨日までただのナイトツーリングだったはずなのに、気づけばもう俺はレプヤンらと一緒に目的地が分からないツーリングになっている。

そんな自分に苦笑してしまう。



◆穴の中に入れば眩しくない


AKデデドンからスコップのようなアームが伸び、地面を掘り出す。

乾いた土が崩れ落ち、赤茶けた断面がむき出しになる。

掘り進めるたびにひんやりした空気が吹き上がってきた。


ものの数分で、三人と3台がすっぽり収まる穴が完成した。

まるで地底世界の入口。

外の世界と切り離され、音も光も遮断されると、不思議と心が落ち着く。


寝転んだ瞬間、デデドンとカゼキルはすぐに爆睡。


──さっきの決意のまなざしはどこ行ったんや...


夜行性っぽいレプヤンら。ほんまに地底から来た妖怪なんちゃうやろか。


そういえば俺も昨日から寝ていない。

まぶたを閉じると、半乾きの服が気持ち悪い。けど土の匂いに包まれた瞬間、意識は暗闇に溶けていった。


ーーー


目が覚めたのは夕暮れ。

ハリセンで頭を叩かれる感触に飛び起きた。痛い。


穴の入口から差し込む光は赤く、湿った空気が夕日に照らされてほのかに蒸気を帯びている。


外に出ると、雨は上がっていたが、所々に残る水たまりに夕陽が反射してキラキラ光る。

湿ったアスファルトから立ち上る匂いは、夏祭りの帰り道を思い出させる懐かしさがあった。


デデドンたちはすでにAKに乗り込み、再出発の準備をしていた。

俺も慌ててチョッパーに跨がりキックを踏み下ろす。


淡路島を越え、四国へ。そこから瀬戸大橋を通って再び本州へ。


「...いや、なんで俺が高速代払ってんねん」


水たまりを通過するたび、目の前に水柱が立ち上がり、虹がかかる。

──俺だけが前面ずぶ濡れ。デデドンとカゼキルは、カッコエエって顔で見てくる。


「前見えへん! フェンダー返してやー!」と叫ぶと、二人は笑いながらもさらに加速して見せる。


なんか腹が立つのに、なんか楽しいと感じてしまっている。


水たまりもなくなって来たころ、瀬戸内海を見下ろす絶景ポイントで停車。

潮風が頬を撫で、海は真っ黒な鏡のように広がっていた。

耳を澄ますと波の音が聞こえる。


二人は辺りをきょろきょろと見回す。

やがてデデドンが、海の向こうに浮かぶ小さな島を指さした。次の目的地のようだ。



◆チョッパーに不要なものはない


その瞬間、背後からカゼキルに羽交い締めにされ――視界がぐにゃりと歪んで、意識が途切れた。


ーーー


目を覚ました俺の目の前にあったのは、チョッパーのコンテナから取り出され、散らかった工具箱だった。


俺は仰向けに寝かされていたらしい。

そして、俺を見下ろすニコニコ顔のデデドン。


「...何が起こった?...」


答えはすぐ目に入る。

ニコニコ顔のデデドンが、誇らしげにステアリングダンパーを掲げていた。

まるで宝物でも見つけたかのように。


「おい、それ...俺のやぞ...」


けどデデドンは返事せず、ただ満面の笑み。


AKカゼキルはホバリング準備中。

一人乗り仕様のAKに無理やりタンデム、俺の居場所はどこにもない。


宙に浮かんだAKから、ロープで吊るされた小さなブランコがひとつ。


どう見ても俺用。

木の板にロープを通しただけの、子どもが作った遊具みたいなやつ。


「...マジでか。俺、ここに乗るんかいな?」


どう見ても不安しかない。

背もたれもなければ、安全ベルトすらない。

風に煽られたら一発で海に真っ逆さまに落とされる。


夜の瀬戸内海を飛ぶ。

眼下には、漆黒の海と、街の灯りが水面ににじむ幻想的な光景。

怖さと美しさの両方で心臓が飛び出そうだ。


そんな景色の中、ぽつんと真っ暗な離島に着陸。

地面に立つという当たり前に感激した。


そこにいたのは、がっくりと肩を落としたレプヤン。

俺が肩を叩くと、ゆっくり振り返る。

”青鬼のお面”を被っていた。


社交辞令みたいに俺のペンダントを確認する。

そして、のそのそと歩き出す。


案内された先には、太い腕に足がキャタピラのAKと山積みの材木。


エンジンを唸らせて動きはするけど、材木を持ち上げようとするたびに片腕がガクンと下がり落としてしまう。力が抜けているのが手に取るようにわかる。


「...油圧抜けてるやん、そらアカンわ。」


デデドンは黙って、チョッパーから外されたステアリングダンパーを俺に手渡す。

俺のパーツなのにスワップミートで掘り出し物を見つけたときの感覚がする。

ボルトのねじ山にはまだグリスが残っていて、指先がベタついた。


「サイズ合うんか...?」


試しにブラケットに当ててみると、奇跡みたいにピッチがぴたりと合っている。

六角レンチでボルトを差し込み、カチリと締めていく。トルクのかかる感触が心地いい。

反対側のマウントも同じように固定。

余計な改造もいらない。まるで最初からここに付くために作られたみたいだった。


問題は油圧ラインだ。

減衰力調整のツマミを外して、ホースを繋ぐ。

指先に油圧オイルがにじんで、ヌルリと滑る。


なんてことでしょう!?ボルトオンで取り付けできました。


よくもまぁ出来たもんだと我ながら感心してしまった。

言うまでもない。返してくれるわけはない。


修理完了、動作確認だ。

AKは再び材木を持ち上げる。

ひとつ、またひとつ。テンポ良く積み上がっていく。


「なんでもパワーで持ち上げるんか...ほな、おまえは『パワモチ』やな」


愛車のパーツを奪われた俺は涙目。

俺のチョッパーは以前から、ハンドルのふらつきが発生している。

チョッパーには無駄なものはいらない、でもこれはとても必要なパーツなのだ。


三人は大喜びで、俺に振り返り、ニコニコしている。

一緒に何故喜ばない?という雰囲気。


──なんで俺まで喜ばなアカンねん!


そう思いながらも、こんなに喜ばれたらちょっと嬉しい。


パワモチが近づいてきて、ニコッとしながら差し出してきた。

...ミートボールだ。しかもやっぱり生。

そして生なのにウマーい!

一口サイズの鉄の味が絶妙や。


四人でちょんと小さくジャンプした。



◆力を合わせたら海も渡れる


帰りはどうするのかと思ったら、カゼキルがまたホバリング。


AKカゼキルからロープが下りてきて、パワモチの腰に巻かれる。

上空に引き上げようとするけど、重さで一瞬ピタリと止まる。


カゼキルがタイミングの合図を出す、パワモチは地面に拳を叩きつける。

その反動で体が跳ね上がる。


重力が一瞬軽くなったタイミングで、カゼキルが上昇。

引き上げるAKカゼキル × 跳ね上がるAKパワモチ。


完璧な連携プレーで、夜の瀬戸内海をひとっ飛び!

月明かりに浮かぶ、4人と2台のシルエット。


「今の俺達を見たら、妖怪って思われるかもな~」


その隣には、静かに浮かぶ飛行船。


再び朝が来るころ。

三人はまた地面を掘り出し、静かに横になる。


──パワモチの材木を積む姿は、ただの整理整頓にしか見えへん。几帳面は秩序を求め続ける自分との終らない戦いなんやな。


一本一本の木材をきちんと並べるたび、胸の中までピシッと整えているみたいだった。


次の目的地へ向かう前の、ほんのひととき。

三人は深い眠りに落ちていった。

土の匂いに包まれながら、いつの間にか俺も眠っていた。


チョッパーとの別れが近づいているなんて、まだ全く気づいていなかった。

次回、完全に俺のチョッパーはなくなった

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ