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カコカンコ  作者: 飴玉
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第12話「トオナラ」

新天地はただの伝説にすぎないではないのか?そんな気がしてきた。

あったとしても6600万年という長い月日でもう住めなくなっているかもしれない。


あっちの惑星、こっちの惑星と降りてはみたけれど、どこも決め手に欠ける。

揺れっぱなしで、食料に見下され、風がない惑星もあった。

最初は冒険心でワクワクしていたけど、だんだん不安と倦怠が積み重なってきていた。


俺は完全にネガティブモードに陥っている。


「もうええやろ、十分がんばったやろ。地球に帰るか、月のテペテペたちと地底で暮らすか」


あれだけの仕打ちをされたのに……。

心の中で天秤を揺らし、ついに腹をくくった。


「よし、帰ろう!」


決意した瞬間、


「住めそうな惑星をキャッチしましたであります!」



◆諦めた時点で夢は叶わない


俺は思わず天を仰いだ。なんでやねん、帰る決意した途端に希望が見つかるんか、もうどうでもいいけど。


「あっそ、みんなどないする?」


クルー全員で多数決、結果は──着陸。

俺ひとりだけ”降りない”に手を挙げたけれど、数の力には勝てん。しゃーないわ。


窓の外に見えたその惑星は、本当に地球によく似ている。

青い海、緑の大地、空気に揺れる雲の筋。

むしろ地球よりも光り輝いて見えるほど。まぶしすぎて、胸の奥が熱くなる。


「ここが新天地や!間違いない!」


着陸し、それぞれのAKに乗り探査開始だ。

俺はAKカゼキルのブランコに乗り上空から探査を開始。


遠くの山肌には柿がたわわに実り、朱色の点が絵の具をこぼしたみたいに広がっている。


街道らしき道を爆走するデデドンとツイテルの姿も見える。

彼らの後ろには砂煙が尾を引いて、なんとも賑やかだ。

道は整備されつつも所々が途切れている。その隙間を、パワモチたちが器用に補修していた。

大きな腕で崩れた石を積み上げ、まるで土木作業員のように。


みんなこの惑星に定住すると決めているようだ。

スイレイとテペテペたちの姿は見えない。


「…なんや…このレイアウト、ほんま奈良そっくりやん」


つぶやいた俺の声は、風に流されて消えた。


地上に降りてカゼキルにみんなを呼んでもらう。

もう俺も心は決まっている、ここに定住だ。

地球なんかどうでもいい。


デデドンたちを待っていると、スイレイとテペテペたちがこちらへ向かって歩いてきた。


「新天地到着できました。ありがとうございます。艦長!長旅ご苦労さまでした!」


スイレイが見慣れない乗り物に乗ってやって来る。


いや……違う。

近づくにつれて目の前が滲んできて、はっきり見えない。


そう、それは水冷に魔改造される前の空冷チョッパー。俺の愛車だ。

忘れもしない鉄の相棒。その姿を目にした瞬間、涙が持ち堪えられなくなり溢れ出した。

痛いわけじゃない、悲しいわけじゃない、これは嬉し泣きだ。


デデドンたちも合流、全員集合。


「カンチョウ!」 「艦長!」


「みぶな…あびばぼぅ…」

(みんな…ありがとう…)


言葉にならん。俺は声を震わせながら号泣した。


「あっ!」「アッ!」

「えっ?どないした?」


テペテペたちは大事なことを忘れていた。それは空気に悩ませられている月テペテペの存在。

宇宙船スルメを解体してバイクに戻してしまった。


「もう一度宇宙船スルメのパーツに返して下さい」


「嫌や~!絶対に嫌や~!返すも何も俺のんや~!」


全員で取り押さえられてロープでグルグル巻きにされた。



◆待ちくたびれた偉人


身動きの取れなく横たわった俺はレプヤンたちを睨む。

その先の遺跡の奥に人影が…。


(なんやこのオッサン…教科書で見たことあるような…)


「…よくぞ来たりし。幾星霜を経て、吾は待ち侘びたり。」


「…は?」「…ハ?」


「我は厩戸皇子、欽明天皇の御孫にして、用明天皇の御子なり。」


あっけにとられる一行。

日本語っぽいのにさっぱり意味が分からない。

そのオッサンは気にせずに話し続けた。


「まことか、汝ら、吾を識らぬとは申すか!?」


「ナニ オドロク? ダレダ オマエ」


「然ればこそ、我は厩戸皇子とこそ申すなれ。汝ら、何処より来たりし者にてあるぞ?」


言ってる意味は分かるようで分からないが、はっきりと分かるのは俺とは違う時代から来た人間だということ。


「そうや、青いペンダントはどこに置いたんやっけ?」


「パワモチ モッテル アオ ペンダント」


パワモチは鬼は外の時に回収してくれていた。みんなに配る。

ついでにロープも解いてくれた。


「おっちゃん、これで話し通じるやろ、俺の言ってること分かるやろ?」


「おお…そなたの言の葉が、余に届く…たしかに、聞き取れる…うう…なんとありがたきことか…」


「オッサン ナイタ ナイタ ハズカシ」


落ち着かせてじっくりと話を聞くと、まさか…あの聖徳太子なのか!?



◆新天地の名は遠い奈良


聖徳太子は、飛鳥からの都移転にあたり、俺たちの知る平城京の場所を測量しに来ていた。


後の東大寺の位置で古代の石板を発見した。

聖徳太子はそれを『くぐり門』と解読し、刻まれたモールス信号のような文字を手がかりに、ワープホール『ボッチゲート』の修復に取り掛かった。


聖徳太子の逸話で、十人の話す”内容”を理解できたというのは、十の”言語”を理解できた、ということだった。


ボッチゲートの修復に成功した聖徳太子がこの地に立ったとき、遺跡はすでにこの状態だった。


誰が作ったのか分からない遺跡とこの景色を見て、この世の極楽”桃源郷”と思った。


テペテペの技術で作られたボッチゲートをくぐって辿り着いたのだそうだ。


あの話は本当だったんだ。

実はもう信じてなかった。


この遺跡の理に適った配置を新しい都”平城京”として再現することを思い付く。

平城京の図面を描き、ボッチゲートを守るために東大寺を設計した。


何回かここと奈良を行き来することが出来た。


テペテペは恐る恐る聞く。


「一人で暮らしているのですか?」


聖徳太子は下を向きボソボソと言った。

新天地に来た時から一人、以来寂しく暮らしていると。

テペテペは安堵する、アクダマはもう居ていない。


「1400年も前の歴史上の人物がなんで生きているん?おかしない?」


聖徳太子も驚き。


「な、なんと…千四百年と申すか!?」


1日の長さは地球と同じ。体感時間では、わずか14年くらいしか経っていないと考えていた。


聖徳太子にとっては“あれから”わずか14年しか経っていないという…

と言うことは地球の百年がここでの一年ってこと?

俺たちは聖徳太子からすると未来人ということか。


いやいや、そんなことよりも早くしないと月に残したテペテペの仲間が…心配だ。


「この地は、かの平城京にも似たる趣きがあろう。ゆえに余はこれを“遠き奈良”すなわち“トオナラ”と名付けたのじゃ。遥かなる奈良の地として、な」


聖徳太子は続けて喋りだす。


「この地、風水よく、四神に守られ、いずれ恒の都となるべし」


平城京の図面が完成させ、推古天皇に献上した。


そして最後にトウナラに来た時にボッチゲートが崩れた。


感極まったのか、聖徳太子は涙を浮かべながら一人寂しくこのまま過ごすのかと、また誰かと会話することができるなんて。


テペテペは一呼吸おいて。


「ボッチゲートを修復出来るかもしれません。」


それができれば、この長い旅路が一瞬で行き来出来る。

地球に戻れたら月へ行くのは簡単だ。


ボッチゲートから月に残っているテペテペ、世界中に散らばってるデデドンもトオナラに連れてこれる。

そうと決まれば、さっそく行動だ。


テペテペたちとスイレイは聖徳太子に案内され、ボッチゲートへ向かう。

俺たちはトオナラの再建だ。


テンション上がってきたでっ!

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