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カコカンコ  作者: 飴玉
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第11話「ムフウ」

宇宙は今日も星が美しい…いや、正直もう見たくもない。


窓から嫌でも目に入る煌めく星々は、確かに宝石のように輝いている。

しかし何十日、いや、もしかしたら何百日も同じ景色を眺め続ければ、人の心はどうなるのか。恐怖を覚える。

どんな絶景も、時間の中では退屈の一部に成り下がってしまうのだ。



◆言葉の壁は取り払われた


今度はテペテペに日本語を教える番だ。

デデドンたちは民家へ食料調達に行ったり、夜な夜な人里に現れては驚かしたりして遊んでいるうちに日本語を理解したんだそうだ。


しかし声帯の構造が違うため、日本語の発音がどうしてもできない。

そのくせに自慢気にデデドンたちはテペテペに日本語を教える。


「さしすせそ」が「ざぎずでぞ」になったり、「らりるれろ」がどうしても言えなかったり。

けれど意味は理解できるようになっていった。


「…オ、ニワ…ソ、ト…」

たどたどしい発音に、俺は笑った。


レプヤンたちが、自分の口から初めて発した日本語。

言葉の壁を越えた瞬間の小さな奇跡だった。


俺たちは言葉の壁をも越えた絆で結ばれた。

もう必要ない、青いペンダントをパワモチに一斉に投げた。


「鬼は外~!」

「オニ ハ ソト~!」


パワモチの涙と一緒に、青いペンダントが宙を舞う。


ここからは日本語吹替版でお送りいたします。



◆三度目の失敗は許されない


「住めそうな惑星をキャッチしましたであります!」


全員で覚悟を決め、下調べに念を入れる。

もう失敗は許されない――そう俺が許さない。

レプヤンたちも、きっと同じ気持ちだ。


地殻変動、空気組成、海と陸のバランス――どれも地球と大して変わらない。

スーパーコンピューターが示す数字は、すべて”安全”と表示されている。


だが、色合いはまるで古いアルバムの色あせた写真のようだ。

空はくすんだ灰色。木々は色あせた緑。海は濁った鉛色。

鮮やかさのない世界。

時間が止まった写真の中に迷い込んだかのような、奇妙な気持ち悪さがある。


データだけではこれ以上分からない。

危険はなさそうだ。それなら、実際に確かめるしかない。

宇宙船スルメはこの惑星に着陸する。


一直線に突き進むような着陸する。微調整はゼロ。

うまくいきすぎて、逆に不気味だった。


船外に出て、詳細を調査する。

外に出た途端、テペテペが鼻をひくつかせた。


「…月の匂いと同じです。不味いです」


「匂い?匂いなんて…いや、ああ。匂いがないんやな」


そう、匂いがないのだ。

地球の空気には土や草や鹿のフンの匂いがあった。

しかし、ここには何もないのだ。


カゼキルが神妙な感じで呟いた。


「カゼ…カゼ ナイ」


この惑星を『ムフウ』と名付けた。


風がないと汗が全然引かない。

体力を使う動きをすると体温が上がりっぱなしになる。

そして、何より空気が不味い。元気までもがどんどん奪われていく。

何もする気がおきない。


風がない――その事実だけで、世界はこんなにも変わるのか。


「…風さえあれば」


ボソッとテペテペが呟く。


そうだ風さえあれば、淀んだ世界に彩りを取り戻せるかもしれない。


カゼキルが何か閃いたようだ。


「ゼイン シュウゴウ!」


俺たちは一列に並ぶよう指示される。


AKに乗り込み、ホバリング。

フルパワーで羽根を羽ばたかせると、かすかに風が来る。


「気持ちいい〜!」


肌にまとわりつく微風――僅かでもないのとでは、雲泥の差だ。

しかし羽根の動きを少しでも弱めると、風はたちまち止まってしまう。


AKカゼキルの前方から棒がニョキニョキと飛び出し、大きな団扇の形に広がった。


大きく振りかぶり、バッサバッサと風を扇ぐ。

空気の塊が押し出され、草がザワッと揺れる。

風の通り道が、はっきり見えるようだった。


「うひょ~気持ちいい!」


しかしその効果も一瞬、すぐに失速してしまう。



◆乗り物は乗る人を風にする


後ろからデデドンの怒鳴る声が聞こえる。


「AK ノルナ オリロ!」

「カカカカッ」


「まーた要らんことしてるし…」


ツイテルがAKのボタンを適当に連打する。

すると、追加の足が飛び出し、高速回転!マンガダッシュ!

一瞬で小さくなったと思ったら、次の瞬間には大きくなって戻ってきた。


暴走するツイテルを見てみんな同じ事を思う。


(今あいつは…ツイテルはひとり、風を感じている。)


それぞれAKに乗り込み、テペテペたちはカゼキル、パワモチ、スイレイのAKにタンデム。

俺とデデドンは宇宙船スルメに乗り込み上部窓がガルウイングして羽ばたくように開き、暴走するツイテルを俺たちも暴走しながら追いかける。


宇宙船スルメは横に並び、デデドンがAKに飛び移る。

走りながらハンドルの奪い合いが繰り広げられる。

アクション映画みたいだ。


俺は「どっちも頑張れやー!」と応援する。

ハリセンでの叩き合い勝負はデデドンに軍配が上がった。


風のない世界で、俺たちは風になった。

そして、暴風になった。

『暴風族』──それが俺たちや!


デデドンはステーキ、カゼキルはハンバーグ、パワモチはミートボール…それぞれ食べながら暴風族として暴れる。物凄くガラが悪い。


デデドンたちは宇宙船スルメめがけて走りながらオートミートを放り投げる。物凄く行儀が悪い。


テペテペはハンバーグをステーキに挟んでハンバーグを作ったり、ミートボールをしゃぶしゃぶで巻いてロールキャベツ?にしたりして狂ったようにむさぼり食う。物凄い発想力。


「ヒャッハー!」


荒野のガンマンみたいに、俺たちの頭の中でカントリーミュージックが脳内再生される。

俺たちはリズムに乗って咀嚼し、どんどん加速していく。


ツイテルはデデドンの隙をついてハンドルを奪う。

そうはさせまいと奪い返す。


「危ない!」


前方不注意、段差に引っ掛かり横転するAKデデドン。

ゴロゴロっと側転するように転がり、砂煙を上げながら大岩に激突してやっと止まった。


大岩の上空に飛行船、もうあって当たり前、気づいてないフリしたろ。


「アシ モゲタ…」


デデドンは放心状態、分かるよその気持ち。

今までさんざんされてきたのでよく分かる。

高速移動が特技なのに低速でしか移動できない状態が見て取れる。ざまぁと思ってしまった。


すると大岩がゴロンと転がり、空洞が現れた。

ビュオオオォ、風が吹き出した。


全員が息を呑む。

風のないこの惑星に、風が生まれた。

草が揺れ、空気が流れ、淀んでいた世界が動き出す。


風が通った跡が彩られていく。


歓喜が爆発した。

全員でぴょんと小さくジャンプした。


ムフウは新天地になる、そう確信した。


宇宙船スルメのスーパーコンピューターが分析を始める。

少しして、結果が出た。 ―――住みやすくなるのに893年。


「んなアホな…待てない!」


俺たちは肩を落とし、ムフウ星を離脱することにした。



◆本日の教訓◆

データだけでは分からない。その肌で感じろ。

油断するな、前方確認を疎かにするべからず。



今回は一発逆転イケるかと思ったのに…。

確かな手応えを感じつつ、俺達の旅はまだ続く。


風って本当に気持ち良いよね。

俺たちは今日暴風になったよ。

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