3.王宮追放
胸騒ぎは、翌朝の、王宮からの呼び出しによって、確実なものになった。
「騎兵団を除名?どういうことですか?!」
私は王の前で膝をつき、両手、両足が震えてくるのを止めることはできなかった。
「シャーロット、私もどうすることもできないのだよ、すまない。」
ジョージ=アルバート王は、ため息をついて話す。アルバート王は、穏やかでゆったりとした雰囲気をもつお方であった。このような急な冷遇をするような方ではないはずだ。
「シャーロット、実はだね、君は昨日、歌劇団のアーニャに剣を抜いて傷つけ、脅したと報告が入ったのだよ。」
王の隣りで控えていたアルフレッドが前に出て発言を始める。
「?!猿に攻撃されたところを助けただけだ。彼女を傷つけてはない。」
私は、何を言われているのかよくわからなかった。
アルフレッドは最近、王の代理で決定をする権限を与えられていた。
彼は侯爵家の長男で、騎兵団の隊長、且つ、騎兵団員からの信望も厚く、社交的で一目置かれているため、アルバート王も頼りにしていた。アルバート王は穏やかで優しいが、末っ子気質で甘えん坊、重要なことを判断することができない。リーダーシップもないため、飾り王と呼ぶ者も少なくなかった。
「アーニャを助けはしたが、剣で切るなどするわけがない!」
私は声をあげて、精一杯反論する。
「しかしね、当のアーニャ本人から、中庭でシャーロット副隊長から切られたと訴えがあったんだ。確かに、彼女の右腕は刃物に傷つけられたような、鋭い傷だった。」
アルフレッドは、淡々とした口調で話す。
「いや、彼女から叫び声があり、歌劇団の猿が突然狂暴になり、攻撃されたところを助けたのだ!右腕の傷は、猿が攻撃した傷だ、私が切ったわけではない。そもそも、なぜ、私が彼女を切らなければいけないのだ?」
声をふりしぼって話すが、心臓の高鳴りが抑えられなかった。
「アーニャは、彼女が嫉妬から切ったのではないかと言っている。」
「嫉妬?」
アルフレッドが、何を言っているのかわからなかった。
「知っているのだろう?僕が彼女に求婚をしたことを。」
少し罰の悪そうな顔でアルフレッドは言った。
そんなことは、初めて聞いたことだった。確かに、アーニャは絶世の美人である。妖艶で色気があり、アルフレッドの好みにはまりすぎている。
アルフレッドがアーニャに求婚したことは、理解できた。
しかし、なぜ、私が嫉妬でアーニャを切らなければいけないのだ?
「そんなことはでまかせだ!私は求婚のことは初めて聞いたし、例え知っていたとしても、嫉妬などで彼女を切るなど論外だ。仮にも私は騎兵団の副隊長だぞ!?」
私の言葉は、もはや空を回るように、説得力がなく聞こえた。
アルフレッドは完全にアーニャの言い分を信じ切っている。アルフレッドを頼り切っているアルバート王は、私の言葉に耳を傾けることはないだろう。
「君の気持ちもわかる。なにしろ突然の婚約破棄の話だったからね。でも、騎兵団は国を守る隊であるし、国に住む者すべてを意味する。そんな騎兵団の副隊長ともあろうものが、何の力もない非力な市民を嫉妬で切りつけるなど。国の名誉にかかわることだ!」
アルフレッドはアルバート王に高らかに宣言する。
「残念だ、シャーロット。私は君のことを信じていたのだが。嫉妬に駆り立てられた君を、もはや副隊長にしておくことはできない。」
アルバート王は、ため息をついて私に言った。
「副隊長の除隊を命令する。また、オハラ家は軍名あっての子爵家である。今現在、城下町は貧困と流行病で大変な状態だ。父も亡き今、子爵家を存続しておくことはできない。」
もともと、オハラ家は父の亡きあと、母の散財で借金も膨らみ、没落寸前であった。
私の不名誉な副隊長の除隊が決まれば、家が潰れるのは目に見える結果だ。
もはや、アルバート王に何を言っても無駄であった。
アルフレッドはアーニャの虜になり、その言葉を信じて疑わない。
ただ、昨日と同じ、甘い香の匂いが体中に絡んでくるようだった。
何なのだ、この甘い香りはー--
「・・・・。わかりました。」
私は絞り出すように声をだした。
私は、王宮を追放されたのだ。
昨日から嵐のように起こる、不幸な出来事を受けいれることは容易でなかった。
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