正しいカレンダーの使い方
「あれ、子供たちは?」俺は朝刊を片手に持ちながらコーヒーを啜る。
「野球の練習に行ってる。はい」妻は目玉焼きとパンを焼いてだしてくれた。
妻がテーブルを挟んで向かい合うように腰を下ろすと、両手でカップを持って熱い紅茶を冷ますように息を吹き掛けている。
「朝から頑張るな~」
「たまにはキャッチボールしてあげて。喜ぶわ」
「そうだな」俺はパンを頬張った。鼻に抜ける小麦の香りがさらにもう一口と食欲を沸き立てる。
俺はふと壁に掛けてあるカレンダーを見た。
今日は6日の土曜日。日付を目で追っていくと、思わず目を疑った。7日が赤い丸で囲われているのである。
なんだ。何の日だ。記念日?いや、先月に結婚記念日を祝ったし、誰の誕生日でもない。
なんだあの妻の余裕の表情は。優雅に紅茶を飲んでいやがる。ここで「あの丸はなに?」と聞けば、何も覚えていないんだと落胆した表情で見られる。
考えろ。去年の10月7日はなにかあったか?いや、ない。
あぁ、わかった。さっきの野球の会話がヒントなのかもしれない。それとなく聞いてみるか。
「明日、ちゃんと覚えている?何の日か」妻は笑顔で聞いた。
「あぁ。もちろん」俺は必死に笑顔を作って返事をした。
先手を取られてしまった。これ以上なにも聞けない。探りを入れればこちらが覚えていないことを相手側に知られてしまう。
どうする。ここは正直に謝るべきだろうか。
「どうしたの?全然食が進まないけど。味、変だった?」
「いや、変じゃないよ。すごく美味しい」
「お父さん、そろそろ時間じゃない?会社に遅れる」
「そ、そうだな。行ってくるよ。ごちそうさま」俺は急いで残りを流し込んで玄関へ向かった。
わからないまま仕事が終わり帰路につくと、お土産に家族の好きなイチゴのショートケーキを買いに行くことにした。
これで許してもらえるなんて思っていないが、せめてものお詫びの気持ち。なんとかこれで怒りを納めてもらおう。
「ただいま」
「おかえりなさい」
リビングに行くと妻特性のカレーの匂いがした。俺の大好物だ。
「ごめん。実は明日何の日だかわからなくて。本当にごめん」
「それでケーキ買ってきたんだ」妻の表情は穏やかな笑顔だった。
「怒ってないのか?」俺は恐る恐る聞いた。
ふふふと妻は笑いだした。「あれはただの丸。何の記念日でもないのよ。なんにも言わないで丸つけたらどんな反応するか見たかっただけなの」
俺は全身の力が抜けて膝から崩れ落ちた。
こんにちは。aoiです。
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