第三話 絶対的最強魔王様
第三話 絶対的最強魔王様
急に転送されたと思ったら、気づいたら戦火の中にいた。見たところ、転送先は王宮のような場所で、既に至る所が荒らし回られており、陥落寸前のように見える。
う~ん。どれが敵でどれが味方かわかりもしない。
ひとまず状況を整理したい。周りはみな魔物のようだ。人間はなし。
人型の者はいるが、羽が生えていたり、しっぽが生えていることからおそらくは魔族であると推察できる。
一方の勢力は、ボロボロなのに対して、もう片方の勢力は人数の利を活かし攻めたてているようだ。
俺がどっちの味方なのかがわからないから動きようがないなぁ
などと思案を巡らせていると。
一人の悪魔のような見た目をしている美しい女性が俺に話しかけてきた。
「魔王様・・・。我らをお救いください・・・。あなたこそが我々の最後の希望なのです・・・ゴホッ・・・。」
その娘は、血を吐き倒れる。見たところ、全身に多数の傷が見える。
背中にもたくさんの矢傷が見られることから命からがら逃げてきたってとこか。
そうか、こいつが俺のことを召喚か何かでもしたのだろうな。
すると、その娘が倒れるのを見るや否や、目の前におそらくこの集団では恐らく最も地位が高そうなトカゲと人のハーフのような見た目をした男が近づいてくる。
「おいおい・・・魔王だとぉ?こいつがかぁ?こんな貧弱そうな魔力に貧弱そうな見た目の こ・い・つ・が ?」
「「「「ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハ」」」」
さぞかし楽しそうなやつらだ。周りを取り囲むモンスターがギャーギャーと騒いでいる。
「この娘っ子には少々手こづったが、こいつがいなきゃ取るに足らん連中だぁ。魔王の召喚がなんだとか言ってたが、結果出てきたのが赤ちゃんみたいなコイツ!!冗談だろおい!!!!」
「「「「ギャハハハハハハハハハハハハ」」」」
なんて下賤で恥ずかしい連中だ・・・。まずは未知の存在に対しての警戒が必須だろう普通は。
こんなやつら、気持ち的には蹴散らしてやりたいが、生憎俺は生まれたての赤ちゃん魔王だ。
できるだけ戦闘は避けたい。
状況的には恐らくこいつらが敵なのは間違いないが、選択肢は多ければ多いほどいい。
①あたかも俺が強者であるかのようなカマをかける
→魔力が貧弱なのは既にバレている。なおかつ、プライドは高そうだからここまで来て帰りますよ、とはいかないだろう。
②降伏
→これはアリかもしれない。受け入れてくれるなら隙をついて、逃亡や殺害など選択肢が大いに増える。
③増援を呼ぶ
→状況的にほぼ負け確の状況で、戦力になりそうなやつはいないだろうなぁ。じゃなきゃ勝ってるだろうし
ひとまずは②のプランで進めながら、できるだけ情報を拾わせてもらおう。
「おねがいします・・・!ころさないで・・・!あなたさまの役にたつじしんはあります!生まれたてで何も知らないけど・・・!まりょく?もきっとふやしてつよくなってみせます!!」
「あぁ? ころさないでー だぁ?みっともねぇ魔王だなぁ!!まぁこの軍隊長のギャフウ様に仕えたい気持ちはわからんでもないがぁ~?お前を殺すことはこの任務にとって必須なんだよバァァァカ!!てめぇの魔王魂をえぐりとって『竜人王 バザーク様』に届けなきゃいけねぇんだよ!!」
魔王魂?よくわからない単語もあったが、わざわざ情報提供ありがとう。
なるほど竜人王バザークね・・・?
まだ絞れるな。
「そ!・・・そんな!!でもぼくがたたかったら!つよいかもいれないですよ・・・!!にげたほうが・・・!いいですよ・・!!」
「ギャハハハハハハハ!!おまえがつよいだと!!笑わせんな雑魚!!魔力はみたところEかよくてDだ!大体そんなもんだろ!てことは身体系ステータスもそんなところだ!!俺様はなぁ!!身体系ステータスも魔力もCまでもう少しなんだよ!!!!・・・どうだ?わかったか?絶望しろ!!!!」
ベラベラとありがとう。つまりそんなに差はないってことだね。
なんだっけ?軍隊長ギャフン?君の情報提供に感謝を。
プランが全部だめならしょうがない。
最後の選択肢を選ばなきゃね
④皆殺し
「雑魚魔王はここでしn・・・」
ドヤ顔でセリフを読み上げているところ悪いんだが。普通に殺させてもらう。
油断している隙を見て全身のバネを使い距離を縮める。まずは一撃、顎にパンチ。顎を狙ったのは脳震盪を引き起こすためだ。
例え正面からだと威力が足りなかったとしても脳震盪ならば関係ない。誰でも簡単に沈めることができる素晴らしい技だ。
そしてそのまま軍隊長が持っていた剣を奪い、頸動脈を切る。
まずは一匹
そのまま滑り込むように敵の密集した中心部へ入り込む。
侮っていた相手にリーダーを殺された事実。それに頭を支配されているこの刹那、敵中心に逆に入ることにより敵は一気にパニック状態。
密集しているため同士討ちを恐れ、まともに武器も振れない。
こうなれば集団が瓦解するのは必然であった。
ひとり、またひとりと命が消えていく。
気づけば辺りからは物音が消え、立っているものは先ほど生まれたばかりの、赤ちゃんとなじられた、その魔王であった。
「とりあえずは片付いたか・・・。まだまだ敵も残っているようだし油断はできないが、軍隊長と言ってたし恐らくはあいつがトップだろう。おい、そこの物陰に隠れているお前」
「ヒッ!!」
ものかげからウサギのかわいいシッポが出ているぞ。
こういうのを頭隠して尻隠さずというんだな。
「お前は敵か?味方か?」
「味方ですぅ!!戦いに参戦できず申し訳ないですぅ!!命だけはぁぁ!!」
「味方ならなんでもいい、そこの軍隊長ギャハァの首を持って回りにこう知らせるんだ。『軍隊長はすでにそこの死にかけの悪魔の女に討ち取られた』ってな」
「りょ、りょうかいですぅ!!で、でも魔王様自ら俺が討ち取ったぞー!って言わなくていんですか?」
バカだなぁ。なんで自分から敵に手札をバラさなきゃいけねぇんだ。
結局争いは情報戦だ。敵に俺という戦力をバラす必要はない。
「あぁ・・・。そこは俺に考えがある。できるだけ被害を減らしたいんだ。早めに頼む。それからこいつのことを治せるやつを早めに連れてきてやってくれ。」
「は!はいぃ!!絶対にこの任務はたしてみせますぅ!!」
大丈夫かな、このウサギ・・・。
などと心配はしたものの、この戦いは無事収束。
敵勢力は大将の喪失によって、四方に散っていった。
正確には計測していないが、おおよそこちらの被害は甚大だな。
いつ敵勢力が攻めてくるか分からない今、早急な立て直しが必要だ。
まずは事情に詳しそうなこの女に起きてもらわなきゃな・・・。
戦いが終結した数時間後、全身はボロボロながら悪魔の姿の女が目を覚ました。
「寝起き早々悪いんだけど・・・教えてもらってもいいかい?君の知りうることすべてを。」