序章 壊れた鳥かごに何の価値があるのか?
一章から終わりまでに出てくる登場人物の視点が、コロコロと切り替わります。
2行空きが基本の視点変更位置
君のその心の炉は、常に火をともしている。
だから、灼熱の火にも耐えうる、強靭な鋼を打つことができる。
私の心の炉は、薪をくべられることなく、
火は終えてしまった。
今はもうひっそりと静まり返っている。
「いつかはこうなると思っていたんだ。」
優しげに微笑みながら声をあげる君に、
私は別れの言葉を贈る。また会う日まで、
君は時に、歌を歌う。
己の心の溢れんばかりの感情を知ってほしいと
願っているからだ。
私はいつも、文字を綴る。
私の心の中を整理したいからだ。
「私は逃げるよ。君から、彼らから、
私を取り巻くすべてから、逃げ出すんだ。」
君は私を可哀そうだと憐れむだろう。
君から見える私はきっと、幼く拙い、無知蒙昧な、愚物なのだろう。私自身、ずっとそう己を解釈してきた。
だが、違うのだ。知っていてほしい、できることならば忘れないでいてほしい。ずっとずっと、覚えていてほしい。この世の畢竟、先の先まで。
私は、皆で進むために、逃げ出したんだ、と。
恐れを忘れてしまい、何が正しいかの判断する能力を失ってしまうと、もう戻れなくなる。
君の瞳に映る私はひどく幼くみえる。
私の瞳に映る君は老成しているのだろうか。
結局二人とも歪なんだと気付いたのは、いつだっただろうか・・・だいぶ後になってからだったと思う。
ただ、それでも笑い続ける君を見るのが忍びなくて、つらいから、私は、この鳥かご から、逃げ出す君を見送るんだ。
いまや、鳥かごの中には、四季を告げる鳥がときたま、訪れるのみ。
君の傍には誰もいない、君が私を赦すそのときまで。
ゆえに、青い空を眺めながら、今日も赦しを君に乞う。
さみしい君の隣を誰かに埋めてほしいから。