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祈る道化

ラストを少しだけ付け加えました。忘れてました。大事なシーンを書くのを。

「魔王さまがお望みならば、どうぞ私の血をお使い下さい」


道化の声に顔を覆った両手を外すと、道化は変わらずまっすぐに魔王を見ていた。なんの怯えも浮かんでいない澄んだ道化の瞳に魔王の方が戸惑い、ゆっくりと顔を伏せる。


「お前の血、すべてが必要なのだ」

震える声で、魔王は言った。

「余を誰より思う…人の血のすべてを…注がなければ…象牙の乙女は人にはならぬ」

「ただの人の血では…駄目なのだ。誰よりも余を…思う…人の血が要る。だが…そんな者は…お前しか…お前しかおらぬのだ。だが…」


「魔王さま」

道化は何も言うなというように静かに首を横にふった。

「この道化は、魔王さまを笑わせるためこの城までまいりました。象牙の乙女が人となった時、魔王さまは笑ってくださいますでしょう?」


「ああ、ああ。許してくれとは言わぬ。余はお前を決して失いたい訳ではないが…だが…それでも余は…愛する乙女と…ともに…居たいのだ…余は…もう…」

「もう…孤独には…飽いた」


一粒の涙が魔王の頬をつたった。

道化は、王座に座る魔王にそっと近づくと、魔王の前に跪き、明るい空の色をした瞳で魔王を見上げた。

「苦しませないでくださいますね」


そのまま祈りを捧げるように足元でずっと動かない道化を魔王はじっと見つめたまましばらく動かなかった。しかし、やがて意を結したように、鋭利な爪を道化の喉に押し当て一気に引き裂いた。


吹き出した道化の温かい血は、赤い薔薇の花びらのように象牙の乙女にふりかかった。

道化の血は魔王の魔力を宿しながら、象牙の肌に吸い込まれていき、真白のはだを温かみのある色に変えていく。

アクアマリンの瞳に光が宿り、珊瑚の唇がゆっくりと開かれるのを魔王は待った。


しかし


「ああ、私の愛しいかた」

象牙の乙女がそういって、媚びを含んだ瞳で魔王を見つめた時

魔王は、自分を誰よりも思っていた忠実な道化とともに、何の悪徳も知らぬ無垢な乙女をも永久に喪ったことを、

深い、深い絶望の中で……知った。


そんな魔王を光を失った瞳で道化は見ていた。冷たくなった骸の、仮面が外れてあらわになったその(かんばせ)


驚くほど、象牙の乙女によく似ていた。


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