歌う道化
「これが魔王さまの象牙の乙女なのでございますね」
なめらかな象牙の肌をした乙女の像を見ながら、道化は感嘆の声をあげた。
魔王から自由な時を与えられていた道化は、魔王から呼びだされるまでの数日を、暗い城の中いつもとかわらず歌い、踊ってすごしていたが、魔王の視線がないことは道化をひどく寂しくさせていた。
そんな中魔王に呼ばれ、久しぶりに王座のある広間に現れた道化は、魔王の王座の隣に据えられた白檀の椅子に、魔王とならんでかけている象牙で出来た乙女の姿にすぐ気がついた。
女性らしい華奢な身体は柔らかな円みをおびて、流れる長い髪は卵形の顔を上品に縁取っている。
見開かれた大きな瞳には、まるで道化の瞳と対になったような明るいアクアマリンの宝石が埋めこまれ、微笑んでいるように形のよいカーブを描く唇は薄桃色の珊瑚。纏っているのは、上品な光沢を放つ白絹のドレス。花嫁衣装を思わせる清楚なドレスは、無垢な象牙の乙女にこれ以上となくよく似合っていた。
「どうだ?余の乙女は」
道化の反応が満足いくものだったのか、魔王はくつくつと笑う。
「ここ数日は退屈というものを知らずに過ごせた。乙女を創る材料を集める為に久しぶりに城から出たが、ありとあらゆる宝石から瞳を選び、唇に使う珊瑚の色を決め、ドレスを選ぶことがこんなにも心踊ることとは思ってなかった。礼を言う」
「いいえ、いいえ、魔王さま。魔王さまがお幸せなら、それは私の何よりの喜びでございます」
そう答えながら道化は、いつもなら自分に注がれている魔王の視線が、象牙の乙女から離れないのをひどく寂しく思った。一人きりで過ごしていた時よりもずっとずっと。
「今日は魔王さまが、象牙の乙女の乙女を得られた祝福の歌を歌いましょう」
深く一礼をしてそう告げた道化に、魔王は柔らかな視線を投げた。しかし、歌いはじめた道化からすぐに視線は外れ、熱をおびた視線が再び象牙の乙女に注がれるのを見て、道化は歌いながら静かに瞳を閉じた。