ダンジョン「深淵の洞窟」
視点は変わる。
暗い洞窟を灰色の髪をオールバックにした細いががっちりした体格、上下黒スーツ、青ワイシャツ、ノーネクタイの男が歩いて進んでいた。
男が通った後には、魔獣のバラバラ死体が転がっていく。
男の体からは黒いオーラが放出し、魔獣を切り刻んでいた。
男「あぁ、つまんね。ボスは強いかな。」
男はぼやきながら、扉を開けてダンジョンボスの部屋に入っていく。
扉が閉まると、異様な静けさが辺りを包むのだった。
一方そのころ、キリフのある食堂では、イース達が集まって会議をしていた。
深淵の洞窟の探索についての話し合いである。
マリン「難易度Sってヤバイよね!」
何かマリンが女子高生みたいになっている。
アイビス「うん!ヤバイ!」
アイビスもかよ!
ソド「何となる。皆、思ってたより強い。」
ルシア「目的の素材が手に入れば、そこで探索終了だしな。ボスと戦う訳じゃないから大丈夫だよ。」
プラシュ「私の新作ぬいぐるみ達を用意して挑みますね!」
スミス「出発はいつにする?」
マリン「明日で良いんじゃない?」
シスカ「そうですね~行けるなら行っちゃいましょ~」
イース「うん。」
こうして、各自で探索準備を整え、翌朝、深淵の洞窟に出発したのだった。
深淵の洞窟は難易度Sという事もあり、ダンジョンへの門の警備は厳重で、能力が高い衛兵数百が守っている。
ソドがギルドカードを見せると、すんなり通してくれた。
門の中に入ると、目の前には今にも吸い込まれそうな洞窟がある。
洞窟内には、等間隔に松明が並び、不気味だ。
イース達は歩いて奥に向かう。
だが、不思議な事に魔獣が出てこない。
マリン「何も出てこないね!」
ソド「どうしたんだろ?」
ルシア「これじゃ、素材取れねぇな。」
スミス「油断するな。隙を見てるんじゃないかな。」
だが、進んでも進んでも魔獣は出ない。
アイビス「大分、奥に来たけど、何も出ないね。」
シスカ「何か静か過ぎます~」
すると、大きな扉が目の前に現れる。
ボス部屋の扉だ。
ルシア「おいおい。ボス部屋じゃねぇか。これおかしいぞ。引き返して報告しよう。」
瞬間。
息もつかないような威圧感を感じ、空気が揺れる。
ゴォーーー
ドガァーン
大きなな扉が粉砕し、辺りに飛び散る。
マリン「何か来るよ!皆!気をつけて!」
砂煙が晴れてくると、スーツ姿の40代くらいの男があくびをしながら出てきた。
男はイース達を威圧しながら歩いてくる。
イース達は言葉も出ず、立ってるのがやっとだった。
男「何だ。雑魚か。」
男はそういうと黒いオーラを放出し、近づいてくる。
イースは口を噛みきり、何とか体に力を入れる。
そして、イースは男に狼のように走って近づき、ガントレットの爪で攻撃を仕掛ける。
男「おやおや。動けるのか。ん?お前、面白いな。加護が全くねぇじゃねぇか。」
男はイースの爪を人差し指と中指で挟んで止めながら話す。
男「少し遊んでやるよ。」
男はイースの額にデコピンをかます。
ドォーン
イースが後方に転がりながら吹っ飛んでいく。
男「おやおや。頭、ぶっ飛んでねぇな。加護無しが大したもんだ。それにしても、他のやつはダメダメだな。加護ありが何やってんだ。」
男は笑いながら言う。
イースはかろうじて立ち上がり、男に飛びかかる。
男はイースの何十発もの攻撃をヒラヒラとよけて、イースの腹に前蹴りを入れ、またまた、後方に吹っ飛ばす。
男「頑丈だな。普通なら体はバラバラだろうに。そうだ。少しやる気を起こさせてやるよ。」
男はそう言うと、指をパチンッと鳴らすと周りが黒くなり、空間が変わる。
見えるのはイース達の姿だけだ。
男「貫け。魔神槍。」
すると、黒い地面から禍々しい黒い槍が数えきれないほど生えてきた。
そして、その凄まじい速度で生えてきた槍はイース以外のマリン達を襲う。
一瞬だった。
マリン、シスカ、アイビス、スミス、ソド、ルシア、プラシュ。
7人の頭、胸、手足、いたるところに槍が刺さり、体をバラバラにしていった。
イースは見ているこどもの日しかできなかった。
残ったのは、マリン達の肉片とぶち撒かれた内臓、大量の血溜まりだった。
イースは呆然とする。
何でこうなった?
何でマリン達が殺された?
ダンジョン探索に来ただけなのに。
こいつは何で笑ってんだ?
男「雑魚は死んで当然だな。はっはっはっは。さぁ、少しはやる気出たか?」
男は笑いながらイースに言い放つ。
イースの中で何かの線が切れた。
イース「殺してやる!」
イースは鬼のような形相になりながら立つ上がり、男に向かって自分の最高速でガントレットの爪で攻撃を何回も何回もした。
男は冷静に捌きながら、隙が出きると、パンチやキックで攻撃を返してくるため、イースは何回も何回も受け、吹っ飛ばされていた。
男「ダメダメ。それじゃ、攻撃は通らないぞ。体の限界を越えろ。もっと必死になれ。仲間が死んだんだろ?」
イース「お前・・・が言・・・うな!」
イースは感情が爆発する。
すると、男が捌こうとした手が逆に弾かれた。
イースもその隙を見逃さず、すぐに男の懐に潜り込み、右拳を腹に叩きつける。
イースの右拳は男の腹にめり込み、そのまま振り切ると男は後方にぶっ飛び、転がりながら黒い壁に激突した。
ドガァーン
男「そうだよ。それそれ。あぁ、面白かった。そろそろ帰るかな。」
男が指をパチンッと鳴らすと、黒い空間が消え、洞窟の中に変わる。
驚いたのは死んだはずのマリン達が無傷でそこにいること。
イース「皆・・・生きて・・・」
男「おいおい。よそ見したらダメだろ。終わりだな。」
男はイースの顔に右フックをかまし、イースは地面にめり込むと、意識を手放した。
男「さて、じゃぁな。そいつによろしく。」
マリン「イースに何すんだ!」
男「動けなかったやつが言う事かよ。悔しかったら強くなれや。お嬢さん。」
男は手を振りながら洞窟を出て行った。
マリン「クソッ!」
アイビス「助かった・・・」
スミス「早く町へ戻ろう!イースの治療してもらわなきゃいけないから。」
こうして、マリン達は意識の無いイースを運びながらキリフに戻ったのだった。
一方、深淵の洞窟近くの森の中をスーツ姿の男は歩いていた。
すると、男の目の前にピンクのショートカット、胸はスイカ、スタイル抜群のメイド美女が現れる。
女「こんなところにいましたか。城にお戻り下さい。サタン様」
サタン「あ!見つかっちゃったか。しょうがない。戻るとしよう。リリィ、ゲート頼むわ。」
リリィ「魔界に戻ったら仕事が山積みですからね。働いて下さい。」
サタン「はいはい。あぁ~面倒臭えなぁ。でも、今回はけっこう楽しかったから良いか。」
リリィは空気中に右手を上げると、そこから丸く空間が広がり、人が通れる穴ができた。
穴の向こうには、赤黒い空、大きな黒い城、暗い森等が見える。
二人は穴に入ると、穴は何もなかったかのように閉じたのだった。
サタンのフルネームは、サタン・ディープダーク。
ジョーカー王国の北側にある暗黒山脈を越えた先にある魔界の王、つまり魔王である。
そう。
イース達は魔王と戦っていたのであった。