最下層
80階を突破したイースたちは、90階へと足を踏み入れた。
そこは、どこか見覚えのある光景だった。
柔らかな苔が生え、湧き水が流れ、まるで自然のオアシスのような空間が広がっていた。
「これは…50階で見たセーフティエリアとそっくりだ」
ルシアが呟いた。
「そう・・・だね。」
イースも同意する。
ソドは、無言で周囲を見渡し、警戒を怠らなかった。
アイビスは、双剣を手に、周囲を警戒しながらも、少しだけ安堵の表情を見せた。
シスカはおっとりとした笑顔で、湧き水で顔を洗っていた。
マリンは、イースに寄り添いながら、楽しそうにあたりを見回していた。
プラシュは、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめ、小さな体で大きく深呼吸をしていた。
このセーフティエリアは、ダンジョンの中で唯一、魔物が存在しない平和な場所である。
一行は、ここで再び体力を回復し、心の準備を整えることにした。
十分に休息を取った後、一行は100階へと進む決意を固めた。
100階への入り口は、深い闇の中に開いていた。
その入り口から、邪悪な気が立ち込めているのが感じられた。
「ここ…は・・・」
イースは、緊張感を高めながら、入り口へと足を踏み入れた。
100階は、深い闇に包まれた広大な空間だった。
その中心には、巨大な影が浮かび上がっていた。
「我はタルタロス。資格ある者よ、力を示せ。
」
深淵から響き渡る、重低音の声。それは、まるで大地が揺れるような迫力があった。
そして、その声の主が現れた。
タルタロスは、人間と獣を合わせたような異形の姿をしていた。
巨大な肉体は、まるで山のようにどっしりとしており、その目は燃え盛る炎のように赤く輝いていた。
「こりゃ、ヤバいな!」
ルシアは、タルタロスの圧倒的な力に圧倒されながらも、皆に向かって叫んだ。
タルタロスは、巨大な肉体を振るい、イースたちに向かって襲いかかってきた。
その攻撃は、大地を揺るがし、空気を切り裂く。
「来るぞ!」
ルシアが叫ぶと同時に、無数の骸骨兵がタルタロスに襲いかかった。
しかし、タルタロスは巨大な手で骸骨兵を片っ端から叩き潰していく。
「こんなので倒せると思うなよ!」
タルタロスは、冷酷な笑みを浮かべながら、イースに向かって突進してきた。
「イース、任せろ!」
ソドが、大剣を構え、タルタロスの進路を阻んだ。
しかし、タルタロスの強力な一撃は、ソドの大剣を叩き折ってしまう。
「ぐっ…!」
ソドは吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
その隙をついて、アイビスが双剣を高速回転させ、タルタロスの足を切り裂こうとした。
しかし、タルタロスは身をかがめ、アイビスの攻撃をかわす。
「ちっ、なかなかやるな」
タルタロスは、アイビスに近づき、大きな手で掴み上げようとした。
その時、マリンが素早くタルタロスの足に飛びつき、必死にパンチを連打する。
「放せ!」
シスカは、大槌を振り上げ、タルタロスの頭を叩きつける。
しかし、タルタロスは痛みを見せず、シスカを片手で掴み、振り回した。
「皆、大丈夫か…?」
イースは、仲間たちのピンチに心を痛めながらも、決して諦めなかった。
彼は、ガントレットの鋭い爪で、タルタロスの肉体を切り裂こうとする。
しかし、タルタロスの皮膚は硬く、なかなか傷つけることができない。
「無駄だ」
タルタロスは、イースに向かって嘲笑し、さらに攻撃を仕掛けてきた。
その時、プラシュが、召喚したぬいぐるみタルタロスの足元に小さな穴を掘った。
タルタロスは、その穴に足を踏み外し、バランスを崩した。
「今だ、イース!」
ルシアが叫ぶ。
イースは、その隙を逃さず、タルタロスの足に飛びつき、全身の力を込めて「振動」を放った。
「ぐああああ!」
タルタロスは、激しい衝撃を感じ、その巨体を震わせた。
そして、ついに、その体はバラバラに砕け散り、消え去った。
「・・・やった!」
イースは、力なく地面に倒れ込み、安堵の息を吐いた。