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17.オーバーキル

 ホバークラウドは角ばったフォルムがカッコよいのだが、大きい割に四人までしか乗車できない。

 荷物を積む場所もそれほどないのだけど、光学迷彩の機能を始め色んな機能が付いている。

 前にスパランツァーニ、後部座席は俺とメイアが並んで座っていた。本当は前の方が見やすくて良いのだけど、来た道を戻るだけだから全てスパランツァーニに任せることにしたのだ。

 

「そこにベルトがあるので付けてね」

「これですか?」

「そそ、その赤いボタンを押して」

「きゃ」


 ボタンを押すとしゅーっとベルトが出て来てメイアの体を固定する。

 同じようにして俺も固定ベルトを装着し準備完了だ。

 

「では、カムラット領空外に出ます」


 スパランツァーニがホバークラウドを起動させる。

 音も立てずにホバークラウドが地上から30センチほど浮き上がり、メイアが目を白黒させた。


「う、浮いてます! 浮いてますですよお!」

「浮くけど、飛べないんだ」

「ウィスプみたいな使い魔なのですね」

「ウィスプ?」


 と聞いたところで、ホバークラウドが加速する。

 再び悲鳴をあげるメイアは俺の質問に答える余裕がなくなっている様子。

 時速150キロは出てるかな? 一度通ってきた道なので障害物があったとしてもホバークラウドが通過できる隙間はあることは分かっている。

 流れる景色に「ふぁあ」と今度は感嘆の声をあげるメイア。


「風が気持ちいいですます!」

「爽快だよね。少し浮いているから川だろうがそのまま進むことができるんだ」

「あ、ウィスプのことを尋ねられていたのでした。ウィスプは青白い火の玉みたいなモンスターで、常にふよふよ浮いています。移動速度は遅く、ゆっくりと移動します」

「なるほど。モンスターか」


 ファンタジーな惑星で魔法がある。魔法だけじゃなく、モンスターもいるんだってさ。

 ドラゴンとかもいるんだろうか? ワクワクしてくるが、今俺はモンスター見学よりカレーである。

 カレーのために農業をしなきゃならんし、農業をするために道具がいるだろ。輸送を快適にするためにもメイアを拠点に連れていく途上なのだ。

 そうこうしているうちに大きな川が見えてきた。この川を越えるとカムラットの領空防衛域外に出る。川を越えたところが俺たちの目標地点である。

 

「もうレーレルの川じゃないですか!」

「あの川をそのまま、通過する」

「ほ、本当に大丈夫なのですか?」


 川幅50メートル近くある川もホバークラウドなら地上を走るのと変わらない。

 川の名前はレーレルというらしい。

 速度が150キロ出てているので、通過も一瞬……ざばああと川から何かが姿を現した。

 が、ホバークラウドは障害物を認識し右に大きく舵を切り回避する。

 川を越えたところでホバークラウドが急激に速度を落とし停止した。

 前に思いっきり体が動くが固定ベルトのおかげで問題なし。

 

「な、何かいたよな」

「敵性か否かは分かりませんね」

「く、首が……。お、驚きました」


 スパランツァーニの抑揚のない声とメイアの反応は真逆だった。

 唐突に止まらなくてもいいのに。川で何かが姿を現したから速度を落とさず川を越え目標地点に達したので急停車したのだ。


「メイア、大丈夫?」

『映像をナノマシンに頼む』

『送ります』

 

 彼女に声をかけがら、脳内会話でスパランツァーニとやり取りをする。

 首を回し、上下に振ったメイアが「問題ないですます」と答えた。


「う、うーん」

「やはりどこか傷むのか?」

「い、いえ。後ろを見たいのですが、ベルトが動きません」

「あ、ああ。もう一度ボタンを押す」


 俺がやってみせるとメイアもボタンを押し、ベルトの固定が外れる。

 

「こ、こんなところに。ナーガが!」

「ん、あの蛇?」


 メイアと会話していたので映像を確認するのと、実際に見るのが同時になった。

 川から顔を出しているのは、青緑色の巨大な蛇の頭である。

 水棲の蛇なのか、お、もう一つ首が出てきた。

 

「ちょうど顔を出したところにホバークラウドが猛スピードで通ったから敵だとみなしたみたいですうう」

「川から離れれば問題ないのかな?」

「ナーガは地上でも速い、体長15メートルほどもある二首のモンスターです!」

「速いってホバークラウドよりも?」

「さすがにそこまで速くありません! 酸のブレスを使いますし、硬い鱗のため魔法の通りも悪い強敵です!」

 

 酸は何かに使えるかもしれないし、鱗もカレー皿に加工することはできそうだけど……。

 

「う、うーん。余り惹かれないな。他に何かないのかな? 食べるとおいしいとか」

「た、食べるのですか……? 蛇型なので鳥に似た味わいなのではないでしょうか……」

「しゃ、喋っている場合じゃないですますうう! もうそこまで迫って来てます!」

「仕方ない。排除しよう」


 メイアの言葉通り二首の蛇ナーガとの距離は10メートルほどにまで迫っていた。

 酸のブレスとやらが来るのだっけ?


「スライサー発射」

「スライサー発射します」


 ホバークラウドのバンパーが外れ、目にも止まらぬ速度でブーメラン状のスライサーが射出される。

 音を置いていく速度で射出されたスライサーが瞬きするより速く目標を捉えた。

 スパアアアアン。

 頭の付け根辺りがスパンと切り裂かれ、二つの首が落ちた。


「一部回収しておこう」

「畏まりました」


 ホバークラウドで再び川へ入り、沈んだ頭を引き上げ前部座席に乗せる。

 

「な、なんだったんですか……ホバークラウドの魔法ですか?」

「剣みたいなものを投げたんだ」

「け、剣ですか。斬られた音しかしませんでしたです」

「人の目で捉えるのは難しいと思う」

「あれほどの攻撃速度、見たことがありません。魔法耐性が高く、鱗も硬いナーガの首が落ちるなんて」

「堅くても生物だし、魔法的な何かで防御される可能性もあったけど、問題なかったようだよ」


 彼女にどう説明したものか悩むな……。

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