94 友だちでいられるよ!!
その銀髪碧眼の幼女は、面食らったような表情になった。
「……。私が外道にも思えないし見えない? なにを言っているんだ?」
「だって、アンタは世の中を良くしようと思って行動したんでしょ?」ミンティはルーシの生々しい傷口を塞ぎ、「だから、そこいらの私利私欲にまみれた悪党とは違うと思った。それだけさ」
*
メビウスは病院の個室で目を覚ました。高級ホテルのような部屋の中では、モアとラッキーナがふかふかのソファーに座りリラックスした様子であった。
「あ、お姉ちゃん。おはよ」
「思ってたより早く目を覚ましましたね。……。嬉しいで──嬉しいよ」
軽い態度だ。メビウスがこれしきで死なないと知っていたのであろう。ふたりの少女は、それだけメビウスのことを信じている。
「……。心配をかけたな。申し訳ない」
されど身体はまったく動かない。高熱に筋肉痛が加算されているかのような苦しさに苛まれていた。
「心配? なに言ってるのさ、お姉ちゃん」
「そうです──そうだよ。むしろ謝るべきは私たちだと思うもん。ごめんなさい、バンデージさん」
「……。そうか」
「まあ悪いのはルーシ先輩だし、ラッキーナちゃんが謝る理由なんてないんじゃない?」
ラッキーナは微笑む。オドオドした態度しか見せてこなかった少女は、いつの間にか柔和な笑顔を交える素敵な子になっていた。
「でもさぁ、ルーシ先輩たちはなんのお咎めも受けてないらしいんだよね」
「そうなのか?」
「うん。クール大統領が裏で手を回したって話だけど」
「クールの狙いはなんじゃろうなぁ……」
怪訝そうな表情すらも愛らしいのか、モアとラッキーナはあられもなく表情を緩めた。
「バンデージさんって美人ですよね」
「当たり前だよ!! 昔の写真見てみ? めちゃカッコいいから!」
モアはラッキーナへスマートフォンに入っている、30代頃の軍人だったメビウスの写真を見せた。40年ほど前、カメラというものが誕生し、そのときに撮った代物である。
「か、カッコいい……」
「でしょ? こんなカッコいいヒトなんだから可愛くなれるのも当然だよね」モアは火が点いたように、「かっこよさと可愛さは両立できると思うんだ。普段は穏やかな美人さんだけど、いざとなればどんなヒトよりも格好いい。それがあたしのおじいちゃんであり、お姉ちゃんなんだよ!!」
「え? おじいちゃん?」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「いや、私から言おう」
モアとラッキーナの間になんとも形容し難い奇妙な時間が流れた。メビウスは微笑みを浮かべ、ラッキーナへ改めて自己紹介するのだった。
「私はメビウスという者だ。現在72歳だが、なんの因果かこんな姿になってしまった」
「え、え?」
ラッキーナの顔がひきつる。当然の反応だろう。16歳程度の少女の中身があの蒼龍のメビウスなんて、正直誰にも予想できない。
「え、え、あ……」
「いつ告白しようか迷っていたが……このタイミングしかないとも思ったのだ。ラッキーナくん、騙して悪かった。72歳と16歳が友だちでいられるわけがないのだから」
というセリフに、オドオドと言葉を詰まらせていたラッキーナは、なにか過去の自分と決別するように凛とした態度で返事した。
「と、友だちでいられるよ!! だってバンデージさんはこんな私にも優しくしてくれたから!!」
「そうか……」
メビウスは苦虫を噛み潰したような表情で、されど笑みを見せるのだった。
次章『シーズン・エピローグ』スタァート
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