93 いや……運が良かっただけじゃ(*)
イースト・ロスト・エンジェルス市、“パクス・マギア”を巡るメビウスとルーシの対決。
勝者、メビウス。
「やっぱりバンデージさんはすごいヒトだったんですね。あのルーシ先輩とスターリング工業に勝つなんて!」
「いや……運が良かっただけじゃ。みんなの助けがなければ、私はとうの昔に殺られていた」
地上へ緩やかに復帰していくメビウスとラッキーナ・ストライクは、短い会話を交わした。そして白い髪の少女は安心しきった表情で、目を閉じるのだった。
「……ふふっ」
あんなに恐ろしい魔力をまとう者が、いまとなれば自分の腕の中で目を閉じている。ラッキーナを信用してなければできない芸当だ。
そんなメビウスを見て、ラッキーナは明るい笑顔を見せるのだった。
*
「おめェ、仕事放り出して戦場来ちゃダメだろ」
「場面というものだよ、ジョン・プレイヤーくん。どうせオマエもメビウスさん救いに来たんだろ? 大統領もセブン・スターの切り込み隊長も関係ねェ。そう教わって来たんでね」
「へえ。なら、おめェンところの馬鹿娘はどうするよ?」
ジョン・プレイヤーとクール・レイノルズが肩を並べている。思わずモアとミンティは写真を撮り始めた。ロスト・エンジェルス屈指の人気者たちが眼前で並ぶことなんて異常事態のとき以外あり得ない。
「ルーシのことか? アイツはおれの娘だ」
「答えになってねェよ。“パクス・マギア”による平和への願いが成就しちまった以上、あのガキを生かしておいたら仮想敵国にいちゃもんつけられるぞ?」
「オマエだってヒトの親になったんだろ? 血がつながってないとか、異世界人だとか関係ねェ。親が子見捨ててどうするって話だよ。オマエにだって息子がいるんだろ? ジョン」
「フロンティアはこんなくだらん真似しないさ。おれら実力は互角かもしれねェが、育児力じゃだいぶ差がついたみたいだな!!」
「おォ!? 張り合うつもりか!? こン前はじゃんけんで蹴りつけたし、きょうこそどっちのほうが強ェーかやってみるか!?」
「あァ!? 上等だごらァ!!」
やがて怒号に変わったジョンとクールの会話に、モアとミンティはそっとスマートフォンをしまい込み知らぬ顔をし始める。
そんな頃、治療の副作用で昏睡していたフロンティアが目を覚ます。
「……あれ? なんで父ちゃんとクールさんが?」
「父さん、あの幼女の親なんだってさ」
「はあ?」
「すこしくらい説明してくれても良かったと思うけどなぁ。血がつながってないとはいえ、実質妹……いや転生者だから姉? そもそも性別が変わってるから兄? まあともかく……」
意識を失い、白目を剥き凍傷まみれの銀髪碧眼の幼女ルーシに、ミンティは近づいていく。獣人の少年は、彼女の傷口に手をかざした。
「……。誰だ」
「ミンティだよ。アンタとは異母きょうだいだ」
「…………。魔力なんて渡したら、いますぐトンズラするぞ?」
「良いよ。だって放っておいたら、ジョンさんがアンタ殺すと思うし。それに……おれから見りゃアンタは外道のようにも思えないし見えないもん」
体温が37.1度になりました~それなのにカラオケ行く予定です~死亡寸前ひがしやまです~
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