92 たとえこの身が果てようとも!!
「ぐああああッ!!」
鼻がへし折れ、歯も飛んだ。そんなルーシは膝をつき、呼吸を落ち着かせようとする。
だが、メビウスがそれを許すはずもない。彼女は即座に迫撃を仕掛け、ルーシの首を掴む。
「貴様は……貴様だけは殺さねばならぬ!! たとえこの身が果てようとも!!」
握力が恐ろしい勢いで強まっていく。雷撃による氷龍破壊は免れたが、雲が消え去り快晴になってしまったので、今度は溶けてしまう可能性を留意しなければならない。
もっとも、氷の龍が形を保てなくなる前に決着はつくだろう。おそらく引き分け、要するに両者とも凍死することで闘いが終わると老将軍だったメビウスは推測していた。
「おえッ!! ぐへぇ!! ごッ……!!?」
メビウスの腕に首を掴まれ、ルーシは天高くトロフィーでも見せつけるかのように持ち上げられている。こうなってしまうと振り払う手段がない。もう奥の手なんて全部使い尽くした。なにも切り札など残っていない。
青白く顔を染め上げたルーシは、やがてジタバタと逃げようとする素振りも見せなくなった。彼女の細い首についている肉へ爪を染み込ませ、至るところに生々しい穴が空いている。
あと10秒も経てば21世紀最大の怪物が二度目の死を迎えるだろう。そしてメビウスもまた、内蔵が強烈な寒さの所為で機能不全を起こし始めていることを悟った。
それが故、相討ちで終わる、とふたりが同じ未来を想像した折。
氷龍が熱波に晒され、あっという間に溶けてしまった。
「……なにが起きたのだ?」
メビウスとルーシは地上へ落下していく。普段寒い国であるロスト・エンジェルスだが、このときに限れば気温40度に迫る勢いで暑くなっていた。
必殺技が溶かされてしまったことで、メビウスは生き延びる可能性が増えたものの、同時にルーシを仕留める機会も失ってしまった。意識が飛びかけているメビウスに、数十メートル離れた場所より真っ逆さまに落ちていくルーシへ接近する体力も魔力も、すでに残されていなかったのである。
「おーい!! メビウスさーん!!」
聞き慣れた声の男が、地上から手を振っている。
白い髪の少女メビウスは苦笑いを浮かべ、「最高指導者で軍の最高司令官が最前線に出てはならないだろうに」とセリフとは裏腹に、どこか嬉しそうな声色でつぶやく、
「メビウスさんー! 身体に力入んねェンすか!?」
が、メビウスの体力と魔力は残っていない。このままでは飛び降り自殺のような真似をする羽目になりそうだ。72年間生きてきたのに、どんな戦場でも生き残ってきたのに、最期はこんな終わり方なのか。
そんなメビウスと地上の距離が20メートルを切ったときだった。
「バンデージさん!! 強盗から助けてもらった恩くらい返させてください!!」
長身の地味な見た目の茶髪少女が、メビウスの場所まで駆け上がり、彼女を自分の腕に抱えた。そして、ラッキーナ・ストライクはいつものオドオドした表情でなく、柔和な笑顔を浮かべていた。
ノベルピアに最終話載せました。なろう版はあと5話でおしまいです!!
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