9 現代社会の疲弊
ジョンは昔に思いを馳せる。あれは確か、ジョンが若干23歳で特殊部隊の隊長になったときのことだ。年月にして10年。耽りたくなるのも無理はない。
そんな贅沢な時間を味わったあと、ジョンが口を開くのだ。
「それにしたって、お孫さんはすこしにぶすぎやしませんか? おれの正体にまるで気がつく気配がない。有名人のはずなんだけどなぁ」
「自惚れるなということだよ。知名度は度し難い力だしな」
「ンじゃ、おれはいつもどおりモアちゃんと遊んできますわ」
「……は?」
「大人がゲームセンターいたって罪には問われませんよ」
そう言い残し、ジョンはスキップしながらモアのもとへ向かっていった。
耳もよく聴こえるようになったメビウスは、モアとジョンの会話に聞き耳を立てる。
「あ、ジョンさん!! ガンゲームしようよ!!」
「おっしゃあ!! 無敗の女王に黒星つけてやるぜェ!!」
これでは子どもと変わりがない。大丈夫なのか? という声が喉元まで出ていた。
だがまあ、ジョンなりに気を使っているのかもしれない。彼の指揮下でモアの両親は死んだ。その罪滅ぼしというわけではないが、せめて残されたモアに暗い顔をしてほしくないのだろう。
「強くなければ生きていけない。優しくなければ生きていく資格はない」メビウスは独り言を重ね、「なるほど。やはり君は素晴らしい教え子だ、ジョン」
参加に戸惑っていたメビウスも自ずとモアとジョンのもとへ向かうのだった。
*
「いや~。お姉ちゃんガンゲームだけは強いねぇ!! 軍人やってたみたいだ!」
「お姉ちゃんがこういうゲームできるのに驚きだよ! 最近までふるーい携帯電話使ってたのに!」
「まあな……」
そりゃ12歳で入隊して以来72歳まで現役を続けた軍人だ。子供だましのゲーム機でハイスコアを叩き出すのは容易い。
「さて、ジョンおじさんはもう帰るぜ。これから打ち合わせがあるんだ」
「そんなこと言って~。どうせジョンさんニートでしょ?」
「ぎくぅ!! それを言われちゃおしまいだぜ!!」
周りに集まっていた子どもたちも笑う。男児や女児がすこし変装したジョンの正体に気が付かないのは仕方ない。しかしモアに関しては、ジョンという男がこの国でトップクラスの高給取りであることを察知してもおかしくなさそうなものではある。
「ま、良いや。また今度ね~」
「おう! ちゃんと学校行けよ~」
ちゃんと学校行けよ?
(……ジョン、もはやオマエはこの子の親代わりだな。わしですら知らなかった情報を持っているのだから)
「学校か~……」
「今度おれの息子も学校通うんだ。それに合わせてメイド・イン・ヘブン学園に顔出せよっ!」
「うーん~……考えとく~」
「それじゃ、またなぁ!」
ジョンは去っていった。モアもそろそろ満足した頃合いだろう。
「帰るぞ、モア」
「あ、うん……」
どうせ外に出たらお仕置きされると思っているのか、モアの表情は暗い。
だが、お仕置きして学校へ行ってくれるのならば現代社会の疲弊は語られもしない。
現代社会の疲弊は語られもしない、って地の文よくないっすか? 手前味噌だけれども。
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