89 “生き物”の龍が“災害”の雷に敵うと思うなァ!!
蒼龍のメビウス陣営VS黒鷲のルーシ陣営による長きに渡った闘争も、いよいよ大詰めに入りつつある。
まず、ルーシ側の戦力はルーシを除き無力化されている。リヒトはどの対決にも割り込めず、ポールモールはラッキーナ・ストライクから現れた謎の幻体2体に敗北。
対するメビウス側。こちらは重症のフロンティアとその治療を行うミンティ、最前落下したエアーズを除き、未だ健在だ。主なメンバーはメビウス、モア、ラッキーナ、ジョンなどが当てはまる。
蒼龍と大鷲という天空の覇者同士の闘いは、結局、メビウスが介入してきた時点でルーシたちの負けが始まっていた。そして、メビウスを挑発してエアーズとぶつけさせた黒幕がルーシであり、ラッキーナを確実に“パクス・マギア”への踏み台にしようとした結果の安全策が完全に裏目へと出てしまったのだ。
では、性格が起因になって負けを認めそうにもない幼女ルーシ・レイノルズは、如何にしてこの状況から勝利と呼べる糧を掴み取るか。
ルーシの立派なスーツはもうボロ布と変わらない。身体中傷だらけで、いまにも意識が飛びかけている。それでも葉巻らしきなにかを咥え、自分を鼓舞することだけは忘れない。
「小娘ェ!!」
メビウスが声を張り上げた。可愛らしい本来の声色はどこへ消えたのかと訝りたくなる。まるで男性時代の全盛期を彷彿とさせる圧倒的な覇気と魔力。その驚異的な存在はルーシの皮膚をひとりでに震わせる。
「貴様は自分の哲学の実現こそ全人類のためになると思っているエゴイストだ!! ありとあらゆるヒトを騙し続け、ただの人殺しが世界を変えると吹き上がる様は滑稽でしかない! そして、貴様はわしの……私の妹を踏みにじり、友だちに傷を負わせた!! 生かしてはおけぬ!!」
「それがなんだって言うんだァ!? てめェら愚民どもは私の言うことに従っておけば良い!! オマエにはこの世界を良くすることはできねェ!! なぜならば……この世界の無秩序を無自覚のうちに受け入れているからだ……!!」
ルーシの背中に広がる黒い鷲の翼が、すこしずつ色素をなくしていく。銀色に変怪したそれは、やがて金色に生え変わった。
「おォ、蒼龍!! てめェは“龍”だよなァ!? ならば私は金の大鷲だ!! さらに言えば……」
メビウスの目をまばゆい雷光がかする。最前、ジョンの魔力によって回復したはずの天気が再び曇り始め、雷鳴が鳴り響いた。ルーシはあたかも当然のごとく、雷に手をかざしてそのエネルギーを拾い始めた。
「この雷鎚は私そのものだ!! この天空に覇権はふたつもいらねェ!! “生き物”の龍が“災害”の雷に敵うと思うなァ!!」
災害がそのまま降り注ぐような戦場であっても、メビウスは至って冷静だった。過酷な最前線から離れて数十年。メビウスはいわば必殺技といえる隠し玉を展開した。
それを見上げるジョンは、思わずテンションが上がって写真を撮る。
「氷龍が現れたぞォ!! かっこいいなぁ! 相変わらずかっけェよ、メビウスさん!!」
最終決戦です。この小説もそろそろ完結させなきゃ。
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