88 おお、蒼龍!! しっかりトドメを刺してやるべきだったんだよなァ!!(*)
愛らしい表情のメビウスは、地面を蹴り壊すかのように天空高く舞い上がっていくのだった。
その頃、ひとつの闘いが幕を下ろしつつあった。
「どうしたよォ、エアーズ。熱出したみてーに顔色が悪りィ゙ぜ?」
「うるせェよ……。クソ野郎がァ!!」
子どもじみた口喧嘩は空中高くで起きているし、高射砲らしき物体は消えかかっている。エアーズの運命も決まりつつあるというわけだ。
「おっと、最後の賭けなんて許すと思うか?」
ルーシは一撃離脱を狙ったエアーズの読みを当て、もう息も絶え絶えのエアーズが即座の攻撃を選ばなかったことに疑念を抱くが、呼吸も苦しい空中にいれば判断を間違えてもおかしくはない。いわゆる囮でないと踏んだルーシは、エアーズへ黒い鷲の翼を発射した。
「ぐぅッ!?」
ありったけの魔力を込め、存在感の薄れていた高射砲がくっきり浮かぶ。だが、当てれば確実に相手を鎮められる大砲も、当たらなければブリキのおもちゃというものである。
「ぐうの音は出るのかい……惜しいな。私と手を組めば、この世界も掴めただろうに」
どのみち、突き刺した時点で勝ちは確定だ。ルーシはすこしエアーズを殺すことを躊躇しているが、エアーズもエアーズで放っておけば勝手に死ぬくらい傷だらけ。どうにかして配下に加えられないかと、ルーシはいわば慢心していた。
「だがまあ、オマエは頑張りやさんだ。最期のチャンスをくれてやるよ。ここで私についてくるって決めるのなら、てめェに刺した翼は再生用に使ってやろう。さあ、どうする?」
エアーズは思わず、「はッ……」と苦い笑い声をあげる。彼は続けた。
「てめェのケツ舐めながら生きるくれーなら、ここで地獄堕ちたほうがマシだ。どっちにしても死ぬんなら、断じてオマエには従わねェ!!」
「残念だよ……!!」
殺すしかない。ここまでやって心がへし折れない相手なんて、飼い切れるわけがない。飼い慣らせない仲間などクール・レイノルズだけで充分だ。
ルーシの翼が妖しく光り、エアーズはついに爆散と臨終のときを迎えていた。
が、ここでルーシは踏みとどまる。地上から、なにかが来ている。大爆発で半壊した廃工場を中心に、廃墟が広がる地上から、何者かが来ている。
──まさか、蒼龍のメビウスが……あの場面で生き残った? どうやって生き延びた? どう考えても死ぬべきだっただろ……。
ルーシの喉が干からびるように乾いていく。唾液を何度も飲み込み、焦りをまったく隠せていない。
──オカシイだろうが。私は……おれは、ただこの世界のために一生懸命働いていただけなんだぞ? ……オカシイだろうがッ!!
エアーズから自身の翼を引き剥がし、落下していく彼へは目もくれない。圧倒的理不尽が直ぐ側まで迫ってきている。もう生き残れないかもしれない。ついにツキがすべてなくなってしまったのだ。落ち目の乱暴者など、誰も助けようとは思わない。
「それが……なんだって言うんだよッ!! おお、蒼龍!! しっかりトドメを刺してやるべきだったんだよなァ!!」
もはや主人公無しでも話成立する説が出てきてる
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