81 あばよ、ヘタレのウィンストン(*)
言い草は自嘲的で、諦観や達観の領域にいる強者。それがメビウスという人物だ、とクールは酔っ払うと必ずそう言っていた。
そんなメビウスと味方たちが足止めを食らっている中、話はすこし遡る。
*
「上級大将閣下にエアーズのガキをぶつけた?」
「ああ。ウィンストンのヘタレを仲介にこちら側へついてもらった」
「ウィンストン? ああ、あのクソガキか」
「あのガキ、妹の進学費を支払ってやると言ったら尻尾振る犬みてーに喜んでいたぜ? 爆笑を堪えるのに必死だったなぁ。ポール、もうじきウィンストンが来る。分かっているよな? クククッ……」
ルーシはニタニタ笑う。光の入ってこない廃工場だというのに、その邪悪な笑みをポールモールはしっかり目で捉えた。
「ヒトとしてどうかしてるよな、オマエって」
ポールモールは溜め息混じりに拳銃の安全装置を解除した。
そしてウィンストンが現れる。憔悴しきったという表情で。
「おお。老犬の足止め要員の確保ご苦労」
「ああ……。これで妹を高校へ入れてくれるんだよなっ!?」
「そうだな。約束はしっかり守らないといけない」
ルーシはコツコツ……とハイヒール特有の甲高い靴音をあげながら、ウィンストンの周りをとめどなくゆるりと歩き回る。
「なあ、ウィンストン。妹がそんなに可愛いか?」
「当たり前だろ! 小間使いみてーな真似してでも不良の世界で生きてるのは妹のためだ! おれは非合法な方法以外でカネ稼ぐ手段を知らねェんだよ」
「そうか。妹のためだったらどんな泥水もすすれるくらいの覚悟だな? 素晴らしいよ。まさしく愚図だ」なにかを言いかけたウィンストンに声を被せ、「なあ、ウィンストン。私はオマエに期待していた。真っ逆さまに落ちていった無法者が再び成り上がる未来を期待していたんだよ。ところがオマエは私に臣従して生き残ろうとしている。つまらない手を取っちまったわけだ」ルーシは葉巻かなにか分からないものを咥え、「というわけで、もうオマエに生き残る資格はない」火をつけた。
ウィンストンはルーシの態度に気が付き、魔術を展開しようとするが、その頃にはすでにポールモールが彼の頭にハンドガンを向けていた。
「あばよ、ヘタレのウィンストン」
ルーシは手を挙げる。2回、乾いた破裂音が工場内を駆け巡った。
ウィンストン、享年19歳。『大国に依存することは、大国に退治することと同じくらい危険である』という真理をつくかのような言葉の『大国』という部分を『ルーシ』に入れ替えれば、どれほどウィンストンが危険過ぎる立ち位置にいたのか分かるだろう。
「んで? ラッキーナ・ストライクはどうなった?」
拘束具を付けられてあられもない姿の令嬢ラッキーナ・ストライクは、猛獣でも1日中眠りこける麻酔とSMプレイ用なんてちゃちなものではない拷問用の手錠に猿轡すらもはねのけるほど暴れ始めていた。
「……!! こりゃ成功したかもなぁ!!」
ルーシは目を見開き、喜びをあらわにした。
*主人公勢は2話先まで出てきません。
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