74 ──先に返答しておこう。気合いだ
身体から力が抜け、メビウスは地上へ落下していく。白目を剥き、口からはケチャップのように血が流れ出ている。
「もう放っておけば死ぬかぁ? ククッ……」
嘲笑するエアーズではあるが、炎を食らったことへのダメージも大きい。魔術による防御は当然行ったが、あれだけの火の玉を食らって全身がケロイドにならなかっただけ奇跡というわけである。
「ただ、トドメの一撃は用意してあるぜェ!? この大砲を受けたとき、オマエは身体が粉々になる! これァ一撃必殺だァ!!」
身体が熱波によって火傷し身体が痛くて仕方ないエアーズは、それでもプロレスラーのごとくメビウスを煽る。
「ンだよ……反応くらいしてくれよ。つまらねェだろうがッ!!」
その刹那。
「──先に返答しておこう。気合いだ」
「──てめェ、なんでまだ魔術なんて使えるんだよ……しかもふたつ同時に!!」
空間を引き裂きエアーズの目の前に自身を宙ぶらりんにワープさせたメビウスは、彼に抱きついてすこしずつ凍結術式を強めていく。
「凍る……? おい、離せッ!! どのみち大砲は撃つぞ!?」
「自爆を選ぶのかね……!?」
「ああ、選ぶな!! 凍死するよりはマシだ!」
パキパキ……と音を立てながらエアーズは芸術品のように凍っていく。こんなところで終わるわけにはいかないのに、あと一歩まで追い詰めたのに、いまとなれば五分五分だ。そして闘いの流れは確実にメビウスにある。
矢先、警報音が鳴り響いた。敵国が飛行術式と爆破術式を組み合わせて空爆してきた場合に流れる、市民にとって恐怖の音。メビウスにとっても重大な意味を示すメロディである。
「……。軍の介入か? いや、そんなはずはねェ」
「なぜそう言い切れるのだ?」
「オマエが消えればルーシ・レイノルズが得をする。この戦闘を宇宙方面軍だかを使って観測できた時点で、連邦国防軍に圧力かけて出動をやめさせるはずだ」
「だとすれば、なにが起きている……?」
エアーズの考察が間違っているとも思えなかったメビウスは、その青年と同じく一旦すべての行動を取りやめるのだった。
*
とある廃工場にて。
「これで良いのか?」
「良いらしい」
話は30分ほど前に遡る。ルーシ・レイノルズとその部下ポールモールはMIH地区に姿を現し、ある生徒を拉致して東の街へ逃亡してきた。
「にしてもでけェ女だなぁ。高校生とはいえ育ちすぎだろ」
「悪いことではないだろ。さて、最後に確認しておくぞ?」
「ああ」
ポールモールはその長身の少女に注射器を打つ。
「ぶっちゃけ、上手くいく可能性のほうが低い。成功確率は10パーセントくらいだ。失敗した場合、コイツは暴れ始める。怪獣のように、な。成功したらコイツは死んで“パクス・マギア”を起こすのに必要なラプラスっていうものを呼び寄せる。理解してるよな?」
「ハイリスク・ハイリターンは私そのものだ。やれ」
意識不明のラッキーナ・ストライクに謎の注射器が打ち込まれた。
気合いでなんとかなるんなら病院は存在していません。
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