68 君の入塾を認める
「んで? 飲んでくれるの?」
「それがヒトにものを頼む態度か?」
メビウスは口調とは裏腹に苦笑いを浮かべる。どうにも72歳まで歳を重ねてしまうと、こういう小生意気な態度すらも愛らしく見えるものなのだろう。
「まあ、良かろう。君の入塾を認める」
そんなわけでメビウスはこの姿になって最初の弟子をとったのであった。
*
「というわけで登校じゃな」
メビウスをまじまじ見つめるモアをさておいて、白髮少女は孫娘の指示通りの学生服に着替える。
ケーラやミンティと関わってから(あれから5~6時間ほど喫茶店で喋っていた)次の日には授業を受けねばならないというハードスケージュールだが、どうやら学生は元気に満ちあふれているらしく、モアはまったく疲れている様子がなかった。
「まったく、ケーラくんとミンティには困ってしまうよ。男子があれだけお喋りだとは思わなかった」
「まあ、男の子でも喋りたがりなヒトっているからね~。というか、おじいちゃん」
「ん?」
「すでにメイクし始めてるのはある種の関心すら抱くけどさ、どうもあたしたちMIH学園内で狙われてるらしい」
「どういう意味だ?」
「ほら」
モアはスマートフォンの画面を見せてくる。すっかり老眼から解放され目をこらせようともしないメビウスは、「評定金額の1パーセント? わしが1億2,000万メニーでモアが500万メニーの賞金首?」と怪訝な声になる。
「どこかの誰かさんがあたしたちに懸賞金を懸けたみたい。多分ルーシ先輩……だと思う」
「……。あの小娘がそのような回りくどい方法を採るかのう」
「可愛さが大噴火してるけど、大丈夫? あたしは大丈夫じゃない」
「良く分からんことを言うな。大体、あの銀髪の幼女は君へも懸賞金を懸けていたのだろう? それでも潰せなかったわけだから、MIH学園にいる者でもう隠し玉はないのではないか?」
「あー。クラウド100GBがおじいちゃん、基お姉ちゃんがいっぱいで幸せだよ」モアは意味の分からないことを言って惚けるが、「はっ! 我を失ってた! おじいちゃん、さっきなんて言ったっけ? ……。あ、懸賞金の話ね。あたしが付けられてたフダは500万メニーなんて超高額じゃないよ? せいぜい10万メニーくらいだったし」
学生を捕まえるために10万メニーというのも異例の金額だが、モアの値札はいま50倍に膨れ上がっているようだ。仮にルーシが付けたとしたら、彼女はもうなりふり構うつもりなんてないのであろう。モアに必ずトドメを刺し、無法者としてのケジメをつけたいのかもしれない。
だが、メビウスにはどうしてもこの“懸賞金”の考案者がルーシだとは思えなかった。
「しかし、あの女狐がこんなハイリスク・ハイリターン極まりない計画を建てるのか?」
「そんなに危険と得られるものがでかいの?」
「それはそうじゃ。カネに糸目を付けなければ、MIH学園の生徒でなくても噂を耳にして首を掻こうとしてくるだろう」メビウスはうんざりするほど見たモアのうっとりした表情を怪訝に思い、「だから彼女がやった可能性は低いと思う。話が広がって困るのはヤツのほうも一緒だからのう」
5時間から6時間もなにを話したんでしょうかね。
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