62 ありがとう……。本当にありがとう
モアはその言葉らが一応彼女を励ますものであることを知った。12歳から軍人をやっている祖父と、高校卒業時点でセブン・スターになったとインターネットの記事に書かれていたジョン・プレイヤーとの価値観はあまりにも乖離している。しかし言葉へは申し訳程度に気を使っているように感じた。彼らなりにモアへは立ち直ってほしいのであろう。
「……。おじいちゃん、ジョンさん。あたしのこと見捨てないでくれる?」
「いままでもこれからも君の相手をし続けるよ」
「元々見捨てた覚えがねェけどなぁ」
白い髮で青い目を持つ少女と金髪の高身長青年が共に笑う。モアはその様子を見て、たぶんきっと大丈夫だろうと自分を無理やり鼓舞させた。
「分かった。お姉ちゃん、行こうよ。ジョンさんも来る?」
「ああ。おれァ仕事だ。家族水入らずで行ってきな」
「おお。ついに私もお姉ちゃんとして復帰かね?」
「うん。行こう」
それでもいままでとはまったく違うテンション。メビウスは不安を強く覚えながら、耳鼻科へと向かうのだった。
*
「何人か候補をまとめておいた」
「さすがはポールモールだな?」
あの戦闘から一週間。メビウス側にはやや傷口が残っているものの、この幼女ルーシの皮膚はすでに再生されていた。
葉巻特有の甘い匂いが立ち込めるCEO室にて、ルーシはポールモールからの報告書をタブレットで受け取る。
「ストライク家の令嬢『ラッキーナ』。アーク・ロイヤルの弟の悪ガキ『ケーラ』。大統領閣下の息子『ミンティ』ねえ」
「それ以外にも候補はいるが、有力なのはその3人だと思うぜ?」
「それぞれの市場価値は?」
「ラッキーナ・ストライクが4億6,000万メニー。ケーラ・ロイヤルが2億5,400万メニー。んで、ミンティはまだ公示されてない」
「ならラッキーナ・ストライクを叩くのが一番良さそうだな。市場価値が出回ってくれるおかげでやりやすいぜ」
「身体中の魔力に拒絶反応起こして暴発させる薬なら、もう準備できてンだ。あとはCEO自ら被験者を捕らえてくる番だぜ?」
「分かっているさ。計画はこうだ。暴発した魔力を使って小道具を強制収集。あの道具どもには意思が宿っていると言われるほどだしな。勇者並みの魔力を感じ取ったら一斉にロスト・エンジェルスへ現れるのさ」
ルーシとポールモールが独自の計画を建てている間にも、メビウスとモアは着々と北の街にたどり着いていた。
「……。おじいちゃんに買ってもらったメガネさ、もう踏みつけられて壊されちゃったかな」
一番ひどい頃に比べれば大分顔色も良くなってきたが、依然として口調はネガティヴである。そのためメビウスはメガネのケースをコートから取り出した。
「……! これは?」
「ルーシとの戦闘が始まる前に拾ったのじゃよ。私とモアの思い出など、このぐるぐるメガネくらいしか思い浮かばなくてのう」
年寄りじみた喋り方になったメビウスを一瞥し、モアはワナワナと震える手でメガネを手に取る。
「ありがとう……。本当にありがとう」
あんまり可哀想だと抜けないので。
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