61 なにひとつうまく行かないときもある
「そ、そのような言い方はないだろう」
てっきり慰めるものだとばかり思っていたメビウスは、ここに来て旗色がオカシイことに気がつく。
「こういう言い方しかないんですよ、メビウスさん」
されど、高身長で金髪の髭面なジョン・プレイヤーは自分の態度を変えることはない。
「モアちゃんは無法者相手とはいえ、若返り薬を奪うという明確な罪を犯した。盗みや傷害が犯罪じゃないなんて寝言吐かすような子でもないわけだし、やっぱここは本人に立ち直って貰わなきゃ」
「そ、そうかもしれんが」
「……。もう良いよ、おじいちゃん、ジョンさん」
モアは生気のない声色だった。ここまで否定的な言い草をされるとは思ってもいなかった、という顔色である。やはりモアはメビウスやジョンに守ってもらいたいのであろう。子どもが持つ権利として。唯一の肉親に、歳の離れた友だちに。
だけど、もう拗ねて問題が過ぎ去るのを待っていても仕方ない。モアには彼女にしか知り得ない危険情報もある。
『私の目的は人間を容器にしたパクス・マギアだ。オマエも知っているよな? 5つのラプラスっていう小道具集めることで起こる平和の魔法。それらは10代の未来ある学生魔術師を犠牲にしても成り立つんだよ……!!』
もしもあのルーシの発言が事実ならば、パクス・マギアを起こすためにMIH学園の誰かが犠牲になってしまう。せめてそれだけでも伝える義務がある。
「……。ルーシ先輩の狙いは子どもの身体にあり得ない量の魔力を挿入して、パクス・マギアを強引につくること。あたしはスターリング工業から若返り薬を強奪したのもあってルーシ先輩のヘイトを買ってた。だからちょうど良いと選ばれたんだよ。そしてあのヒトは……容れ物にまったく容赦しなかっただけさ」
「え? なに、ルーシ?」
ジョン・プレイヤーが露骨な反応を示した。
「モアちゃん、ルーシに詰められたの?」
「……そうです」
「マジかよ。クールの野郎にチクっとくわ」
ジョンとクールは旧知の仲だ。そのため、ルーシがクールの娘になっていることを知っていたのであろう。
「チクったくらいで行動を改めるとは思えなかったな。あの小娘は」
「つかさ、メビウスさん。モアちゃん関係なくて申し訳ねェんだけど、クールの野郎の息子がMIH学園へ通ってるって知ってる?」
「……は?」
「アイツ、着払いで獣人の息子送りつけられたらしくてさ。おれと同じ目に遭ってやがる。おもしれェよなぁ。ま、それがなんだって話ですが」
結局なにも解決していない。解決していないが、モアの義耳がもうそろそろ完成する頃だ。メビウスが出向いて回収しても良いのだが、ここ一週間まったく外へ出ていないモアに外出を促すのが狙いなので、白い髮の少女メビウスはモアへ言う。
「なにひとつうまく行かないときもある。それを打破できるのは確かに自分だけだ。モア、義耳が完成したらしいから行こう」
年寄りらしい歯切れの良い言い方である。
現状を変えられるのは自分だけだってそれ一番言われてるから
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