6 TSもののお楽しみ早く見たい~
「とはいえ愉快だな。小娘の姿になるのも良い老後かもしれん」
なにげなく薄い破顔をしたくなるような見た目である。この歳になると格好いいとか可愛いといったものに関心を抱かなくなると思いこんでいたが、実際のところは違ったらしい。
「モア、着替え終わったぞ」
「まだ着替えてる~。TSもののお楽しみ早く見たい~」
というよく意味が分からないことを口走る孫娘。どこにこちらへ聞き耳立てている者がいるのか分からないのに無邪気なものだ。
「着替えたよ~ん!!」
やはり娘の娘ということもあり、スタイルは抜群だ。つい先ほどまでジャージ姿の化粧すらしていなかった生娘とは思えない。ただこうなるとメイクもしてほしいものだ。
「どう? 可愛いでしょ!!」
「ああ。とても似合っている」
「やった~! 褒められちゃった~!」
たぶんメビウスが完全なる女性ものの服を着ている姿を見て面白がりたかったのだろう。だがモアの意識はすっかり自分に向いていた。
「他にも色々試してみるか? どのみちカネならあるのだし」
「うん! 卑屈になるのって良いことないね!」
*
2時間ほど経過した。さすがにありとあらゆる服装を試した気がするものの、それは感覚だけだろう。この世に何個の女性服があるかなんて考えたくもない。
「7,600メニーです」
「それではお姉ちゃん! キャッシュレス決済してみてください!!」
「あ、ああ」
モアから渡された携帯にはすでに決済方法が埋め込められているらしい。だから携帯を機械にかざせば会計が終わるという。非常に簡単な説明で誰でもできそうな方法だが、70年以上生きてきてもやったことのないなにかをするのはそれなりに緊張もする。
ピッ!! 決済が完了しました。
「あ、できたのか?」
「できたよ! これで機械オンチから一歩脱出だねおじいちゃん!」
首をかしげながらメビウスはモアの元へ向かう。
この光景を見ていた店員は、なんで孫娘と爺さんの会話なのに見た目は姉妹なんだよ、と思ったという。
「着替えまくって疲れちゃった。なんか食べよ!」
「悪くないな。身体が若返ったからか、脂っこいものも食べられそうだ」
「ほらぁ~。若返ってよかったでしょ?」
モアは肘をメビウスに当ててくる。白髪少女は、「どうだかな」と曖昧な返事だけしておく。
「おっ! 『カイザ・バーガー』がある! あそこで食べよ、お姉ちゃん!」
「良いが……テレビとかで見る限り若者はあちらの『スターバースト』で甘いものとかを飲むんじゃないのか?」
「……お姉ちゃんは陰キャの気持ちをまったく分かってないね」
「陰キャ?」
「あそこにいるヒトたち、みんなキラキラしてるでしょ? 誰よりも自分への自信に溢れてる。私なんかがあんなところ入ったら身体が溶けちゃうよ」
「ま、まあ。カイザ・バーカーでもコーヒーはあるのだろう? ならそちらへ行こうか」
孫娘の闇深い一面を見てしまったような気分になるが、あまり気にしないようにしよう。
iPhoneユーザーですがマックブックを持っていないのでスタバに入れない呪いをかけられています。
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