59 さあ、獲りに行こうか、パクス・マギア!!
「……。演技し続ける定めだからな」
メビウスはそうつぶやき、いまひとつ生気のないモアを病院へ連れて行こうとした。
「……。ごめん、おじいちゃん」
が、メビウスの腕の中でうずくまっているモアはビクビクと震えていた。切り取られた耳の痕は生々しく穴が空いており、彼女は時折涙を流す。
「スターリング工業から若返りの薬を強奪したのは事実だし、ルーシ先輩とあの会社のつながりが見えた時点でこうなると思ってた」
メガネをかけられず、透き通るような金色の目からモアは大粒の涙をこぼす。
「えへへ……。買ってもらったメガネ、もうかけられなくなっちゃった。ホント、あたしバカだよね」
その苦しむ姿と虚しいという魔力を感じ取ってしまったメビウスは、思わず下を向いて表情を隠す。
「……。耳はロスト・エンジェルスの最新医療で治るはずさ。生き残ったことをいまは噛み締めよう」
*
「んで? あのガキをパクス・マギアの容れ物にしちまう計画は頓挫したわけだ。わざわざ口実まで用意してな。これからどうする? CEO」
先ほどモアを抱えていた青年と、最前瀕死だった幼女はすでにスターリング工業本社に舞い戻ってきていた。傷だらけの幼女ルーシはされど笑みを浮かべ、タバコも咥える。
「どうするもこうするもあるか。セカンド・プラン発令だ。蒼龍のメビウスの息がかかっていない10代のガキからちょうど良いヤツを探せ。もうあんな化け物と闘うのはゴメンだしな」
「オーダーはそれだけか? ッたく、蒼龍のメビウスって言ったらアニキの師匠だぞ? クール・レイノルズを鍛え上げた男が少女になってたのは確かに想定外だが、仮に年寄りのままでも介入してきやがっただろ。ありゃ」
「そうだろうが、迫力が違ったよ。若返ってアドレナリンが出まくっている印象だ」
「ま、関わらねェのが吉だな。またMIH学園でちょうど良い素体を探すよ」
ルーシは葉巻を置く。そしてクールを“アニキ”と呼び付き従う青年ポールモールが自身の執務室から出ていくと、ぶつぶつと独り言を始める。
「蒼龍のメビウス、か。いまのアンタには時代の変化を止められるだけの力がねェだろうさ。世界を掴めるのは一握りの猛者だけだ。それに成れたはずの男が小娘の姿かい。あひゃぁははは!」
しばしばヒステリックに笑い続ける癖のあるルーシだが、今回は輪をかけて長く笑っていた。顔が引きつって筋肉が痛む頃、その幼女はソファーに寝転がり宣言する。
「この世界は私には退屈だ……!! だがコイツがありゃ問題はねェ!! ありとあらゆる願いが叶う平和の魔法! 5つの小道具なんて必要ねェ! 未来ある若人を犠牲にすりゃ起こせるんだよ……!! さあ、獲りに行こうか、パクス・マギア!!」
次話より紳シーズンです。シーズン3『ヒトは助かろうとする者のみが助かる』です
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