57 男から女になっちまったアンタにァ無理だ
「形勢逆転だな、おい」
ルーシは余裕たっぷりに笑う。致命傷になりうる攻撃を食らった彼女だが、その傲慢なほどの落ち着きの自信は、やはり有効な一撃を叩き込めたところにある。いくら攻撃を食らっても最後に立っていればそれで良い。ルーシの哲学だ。
では、廃工場にとんぼ返りしてしまったメビウスはなにを考えているか。
「げふッ……」
吐血と鼻血が同時に起きた。メビウスはその端正な顔が青アザだらけになってしまったことを悟る。これではモアに文句をつけられてしまうな、と苦笑いを浮かべた。
「そうだ……モア。君なら逃げられるはずだ。最大の怪物は引き止めておく。邪魔なチンピラも焼け苦しんでいる。行ける。行けるぞ!!」
叫び、メビウスは天空高く舞い上がる。自分を鼓舞するために。自分もモアも生き延びられる未来のために。
「……。へえ。まだやるつもりか」
天空まで戻ってきたメビウスへ向け、ルーシ・レイノルズは目を細めた。
「つーかよ。“蒼龍のメビウス”が少女の姿になって孫娘の姉やっている、ってことかぁ? アンタの孫娘頭オカシイんじゃねェの? まあヒトのこと言えねェけど」
なにも言葉を発さないメビウスに見切りをつけたかのごとく、ルーシは黒い鷲の翼を光らせた。
「……。法則操作術式、か」
「あ?」
「しらばくれるな。ルールを変更する術式の応用版、いや魔改造版といったところじゃな? その翼がトリガーになっており……」
刹那、メビウスの姿がまた見えなくなった。ルーシはあからさまに舌打ちし、もはや焦土と化した地面からも黒い触手のような現象を起こす。
「どこに隠れたっていうんだ? かくれんぼして喜ぶ年頃だと勘違いしているのか?」
されど、メビウスはまったく姿を現さない。高速で動いているから見えないのか、空間移動の応用か。いずれにせよ、相手の姿も音も見えないし聴こえないのはリスクでしかない。
「おい! いつまで経っても出てこねェのならゲーム内容変えるぞ? てめェの孫娘はこの灼炎の中逃げ出したようだが、それならこちらにもアイデアはある! あのガキじゃ絶対敵わねェスターリング工業の幹部を派遣するとかなぁ!!」
「なにッ!?」
思わず空間移動をせずに声を荒げたメビウスは、頭上から落ちてくるルーシの蹴りを頭に食らう。
「うッ!?」
「衰えたかぁ! 老将軍様よぉ!!」
が、メビウスも負けていない。彼女は頭上に振り下ろされたルーシの脚を瞬時に掴み、地面に叩きつけるべく腕を動かす。
「てめェ!! ……。いや、やってみろよ。男から女になっちまったアンタにァ無理だ」
「……!!」
……空中から落下しているルーシを地面に投げつけるための筋力が、メビウスのか細い腕のどこにある? こういう肉弾戦のとき、男性から女性になってしまった現実は重たくのしかかる。
対照的にルーシは脚を離された瞬間、最前引きちぎった龍の羽根へただの刃物として自身の翼をぶつけている。差は歴然であった。
こういうところはTSFもの
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