52 そんなに妹へ声を聞かせてやりたいのかい?
メビウスの正体を知っているのではないか、と感じるほどにラッキーナの眼差しは真剣だった。このヒトに託せばなんとかなる、と言わんばかりに。
「…………特別な存在を目指すのなら、私と関わらないほうが良いぞ」
ただ、メビウスの態度は冷淡なようにも見えた。そもそも武官だった頃から弟子をあまり採らなかったため、今回も消極的なのである。理由はシンプルで、教え子たちがことごとく戦死していったからだ。メビウスが魔術を叩き込んだ者の中で、いま現在の生き残りはほとんどいない。不運の原理と渾名されることには、それなりの理由があるのだ。
「ゔぁ、バンデージさんと関わることやめたくないです!! 初めての友だちだから!」
「だったら教えを乞うことは辞めてもらおう。互いに利点がない」
メビウスの気迫に圧され、ラッキーナは引き下がる。
「わ、分かりました。で、でもカイザ・マギアについては詳しく教えてくれませんか?」
「詳しく、か……」メビウスは行く宛もなく歩き始め、「帝王の魔術カイザ・マギア。紀元前から使われていたという魔法だな。相手の魔力に干渉することでそれらを奪い、自分の傷跡を回復させたり攻撃に用いたり……という話が定説だろう」ラッキーナを見上げ、「しかしこの魔術は選ばれた者にしか使えない。最近の研究では遺伝子、要するにDNA単位で使えるか使えないかが別れるという、いわば才能の魔法だ」ついに出口へたどり着いた。
「わ、私のDNAがそうだってことですか?」
「そうだろうな。実際にこの目で見たわけではないが」
メビウスは指で自分の目を指しておどける。
優秀な才能を自分の手で開花させることはないかもしれないが、いつか満開に咲き誇る姿を見てみたいものだ。それこそ老後の楽しみというものなのだろう。
そんな中、またもや携帯電話が鳴った。メッセージではなく電話のようだ。慣れない手付きでスマートフォンをスワイプし、メビウスは『モア』との電話に応答する。
『よう。オマエがモアの姉か?』
が、電話先の相手はモアではなかった。女性の声ではあるが、明らかに別人だ。
「そうだが」
『オマエの妹が私にとんでもない損害をかけていたことが判明した。詫び金として1億メニー出せ。それまで妹は……』
瞬間、電話の音がスピーカーに切り替わった。そして画面には映像が流される。
『私が預かっておく。期限は3時間後までだ。イースト・ロスト・エンジェルスの──』
殴られて顔が腫れ、手足を椅子に縛られて意識を何度も落としかけるモアがそこにいた。
「……!! 貴様ァ!!」
『うるせェな。そんなに妹へ声を聞かせてやりたいのかい? だったらリクエストに応えてやるよ』
モアとカメラの距離が縮まっていく。普段はもっさりした金髪とぐるぐるメガネが特徴的な少女の面影はそこにはなく、枯れた花のようにぐったりするだけである。
弟子、結局できると思いますよ。まあ話はそれどころじゃなくなってますけれど。
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