45 舐められたら終わりなんですよ
モアは嬉しそうに、「うん!! きっと変われるよ!!」と太鼓判を押す。
「では、行こうか。実力至上主義、強さこそ美徳の学校へ」
*
NLA市メイド・イン・ヘブン区、第5校舎。
「ルーシ帝国の宮殿みたいだな……」
学校舎、というより王宮だ。見た目だけで圧倒されそうになる。
ただし中身は外見のように豪華というわけではない。いや、絢爛ではあるのだが、良い意味での古めかしさを感じない。床は大理石で、シャンデリアが輝いていても、だ。
相変わらずセグウェイで移動している生徒が複数いるし、注意喚起の電光掲示板と監視カメラの数は国会よりはるかに多い。モニュメントだったものは見る影もなく破損していて、落書きまで施されている。
とどのつまり、この校舎はとても治安が悪い。周りは皆メビウスの魔力に萎縮でもしているのか目も合わせてこないが、思い描いていたMIH学園は早くも崩れ去ることになった。
「モアもいないし、ラッキーナくんに連絡してみるか」
モアは別の学舎で授業を受けている。未知の領域にひとりでいるのは、70歳を超えても気が引けるものだ。だからメビウスはラッキーナ・ストライクに電話をかけようとした。
その折、メビウスは肩を叩かれた。
瞬発的にブレザーから拳銃を抜き出そうとする。
が、相手はすでに手を挙げていた。
「おお。君は……ジョンの息子のフロンティアくんか」
赤髪の少女、基少年フロンティアがそこにいた。赤面しながら。
「あの、その、文章書くのは苦手なんで、感想文は無しで良いですか?」
「なんの話──ああ。ファーストキスの話か」
「わーッ!! その話ダメ!! しーっ!!」
自身に注目が集まっていないことを確認したフロンティアは、メビウスに耳打ちする。顔から熱でも発しているかのように、フロンティアの頬は熱かった。
「ッたく……。ここにいる連中はみんな同級生だし、舐められたら終わりなんですよ」
「キスごときで揺らぐのか。君の実力は」
「オレは中身が男で通ってますからね。それなのにキスで悩まされてたら、父ちゃんみてーな魔術師になれねーし」
「たしかにジョンはそんなことでは悩まんな」
「……。父ちゃんって昔からそうだったんですか?」
「そうだな。女遊びは程々にしないと身を崩す、と忠告したが……それでもヤツは遊び尽くしながら一流になったからな」
「オレも父ちゃんみてーに女遊びしてみよーかな」
「やめておけ。大勢のヒトを泣かせる羽目になるぞ?」
「って、そんなことよりメビウスさん。あ、バンデージさん。そろそろ顔合わせが始まりますよ。教室行かないと」
「どこに教室があるのか分からなくてな。案内してくれると助かる」
「任せてくださいよ。父ちゃんの師匠には訊きたいこと山程あるんだから」
高級デパートと勘違いしてしまうほど装飾が強いエレベーターに乗り、メビウスとフロンティアは廊下側がガラス張りになっている教室のひとつに入った。
「よう。おめェがモアの姉だって?」
が、メビウスとフロンティアは座ることも叶わない。始業時間まで残り2分である。
あす、後半戦開幕。思いよ届け、君のもとへ
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