43 コイツからは同じ匂いがするぞ
「この子がルーシ・レイノルズですか? 随分大人びた印象を受けますが」
「そうだ。転生者説が出るほどに彼女は大人びすぎている。10歳にして1億メニーの契約金とともにMIH学園へ入学した化け物。この少女の身体には……悪魔が宿っているように感じるな」
いつだかジョンが自身の娘フロンティアを諭すべく、名前があげられた幼女ルーシ。あのときジョンは彼女のことを『100億メニーの幼女』と呼んでいた。カテゴリーやら評定金額の話を訊く限り、この銀髪碧眼の幼女とメビウスの実力は数字上近い。
「悪魔ですか。無神論国家にぴったりですな。セーラム理事長、我々は憎まれ口を叩き合うこともあったが、あの友情は本物だと信じている。私が言いたいこと、分かりますか?」
「面倒事に巻き込むな、と?」
「そういうことです。もう私は貴官……貴方の同僚ではない。なにも危害を加えられていないのに、敵対的な行動をするのは性に合わない」
「いかにも貴官らしい言い草だ。もう司令部にいた時間のほうが長いはずなのに、一般兵の気分なのだから」
そんなわけで話は平行線だった。メビウスは厄介事を避けて学生気分に浸りたいと考えており、そのためには同じ学園の生徒が敵性因子になるなんてもってのほかである。事情は分かるが、どうしても解せない……現役時代からなにも変わらない関係性だ。
「まあ良い。貴官は不運の原理だからな。いずれそのうち、メイド・イン・ヘブン学園でも揉め事を起こすさ。無論そのときは、私が全力で退学にならぬよう手はずを整えるが」
セーラムは納得していなさそうだが、ひとまずメビウスが首を縦に振ることはないと判断したのだろう。
それでも彼は嫌味ったらしく、「無の世界にカネは持っていけないが、契約金の小切手だ」とメビウスへ1億2,000万メニーと書かれた手形を渡してきた。
「1億2,000万メニー、ですか?」
「我々は友人である以上、本来契約金なんて提示する必要はないのだが……他の職員やスカウトに訝られても困るのでね」
「まず学校へ入るのに契約金が発生するという仕組みが良く分からないですが?」
「魔術師育成私立学園が、どれだけ政府から支援を受けているか知っているのか? 3年間魔術理論を研究員に見せてくれれば、この10倍以上のカネが回収できる。まあもっとも、君の理論は研究者も私も知り尽くしているが……」
セーラムは口惜しそうな表情になる。メビウスほどの逸材が新規に入学していれば、凄まじい利益が生まれたはずだからだ。
「では、面接は終わりだ。9月の頭から君はメイド・イン・ヘブン学園の生徒となる」
8月中旬、メビウスの新たな人生が始まろうとしていた。
*
「へえ。コイツが120億メニーの少女……」
銀髪碧眼の美少女ルーシ・レイノルズは、タバコだか危険薬物だか分からない紙巻きのなにかを咥えながら、後期入学生徒をタブレットで閲覧していた。
「バンデージ、ねえ。コイツからは同じ匂いがするぞ」
ふたりが出会うのはもうすこし先の話。
どこかで聞いたことのある名前かもしれないですね。ルーシって。
いつも閲覧・ブックマーク・評価・いいね・感想をしてくださりありがとうございます。この小説は皆様のご厚意によって続いております!!




