42 若返ったおかげで腰も痛くないので
案の定というか、メビウスはMIH学園の理事長に呼び出されていた。
白い本校舎へと向かい、理事長室のドアをノックする。「どうぞ」と聞こえたので、白髮少女に成り果てた元老将軍メビウスはドアを開けた。
かつてロスト・エンジェルスを独立に導いた伝説の壮麗王『アーサー』の肖像画が、机と椅子の後ろ側に貼り付けられていた。
その絵にメビウスがやや圧倒される中、セーラムはゆっくり前を向く。
「ようこそ、メビウスくん」
セーラムは微笑みを浮かべている。そして瞬時にメビウスの正体を見抜いた。やはり歴戦の猛者といったところか。
「セーラム閣下」
「まさか少女の姿になって私の前に現れるとは。その身体へも大分馴染めましたか?」
「ええ。お陰様で」
「よろしい。さて、メビウスくん。ふたつ訊きたいことがあるのだ」
「なんでしょうか?」
こういうとき、セーラムはほとんどの場合無理難題を押し付けてくる。頼まれれば断れないメビウスの性格を利用しているのだ。
と、分かっていてもメビウスは文句を言わない。セーラムほどの男が無理難題を押し付けてくるということは、その問題の解決はメビウスにしかできないからだ。
「ひとつ。本当にメイド・イン・ヘブン学園へ入るつもりなのかね?」
「ええ。私は軍学校しか出ておらず、この学校の自由な校風に憧れたのです」
「よろしい。ならもうひとつだ」
セーラムはメビウスの目をじっくり見据える。ただ、メビウスもまるでひるまない。
「パクス・マギアを知っているだろう? 実は当学園の生徒の中には、人間の身体に強大な魔力を注入することで拒絶反応を意図的に起こそうとする者がいるのだ。それを行うことで、人為的なパクス・マギアを発現させようとしている。この意味、分かるだろう?」
「……。パクス・マギアはどんな願いでも叶う夢の魔術。子どもがそれを欲しがるのは必然ですな」
「そうだ。だからこそ、大人である君に止めてほしいのだ」
「疑いがかかっている生徒は?」
「それよりもメビウスくん、座ったらどうだね?」
立ちっぱなしだったメビウスを気遣うような言い草だが、この言葉を額面通りに捉えてならない。メビウスとセーラムは所属する軍こそ違うが、同じ階級の『上級大将』。いわば同格同士だというのに、セーラムはその関係性を壊そうとしている。
そのためメビウスは、「結構です。若返ったおかげで腰も痛くないので」と断りを入れておく。
「そうか。若返るというのは良いことだな」
「すべて良いことばかりというわけではありません。それで、疑惑がかかっている生徒は誰でしょうか?」
セーラム理事長はタブレットと紙を机から取り出した。そこへは、銀髪碧眼の幼女が映し出されていた。
「大統領クール・レイノルズの義理の娘、ルーシ・レイノルズに強い嫌疑がかかっている。入学するつもりがあるのなら、この生徒を良く監視しておいてほしい」
10歳程度の幼女ルーシは、写真だけでは分からないことも多いとはいえ、年齢に似合わない虚ろな目つきをしていた。
東山は若者の部類に入るはずですが、いつも腰が痛いです。10代のときから痛かったので筋金入りです。
いつも閲覧・ブックマーク・評価・いいね・感想をしてくださりありがとうございます。この小説は皆様のご厚意によって続いております!!




