37 バンデージさんはモアさんのお姉ちゃんなんですか?
この設定は守り抜くしかない。72歳の老人が16歳になって学生やろうとしています、なんて誰が訊いても噴飯ものだ。
「え、あ、どなたですか?」
「分かるのかね? MIH学園の生徒が」
「プロスペクトと評定金額上位10名くらいは……」
「私よりよほど勤勉ではないか」
「えへへ……。ありがとうございます」
いまから入ろうとする学校について、ろくな調査もしていないメビウスもメビウスである。プロスペクト? 評定金額? いま聞きかじった単語だ。
されど、メビウスは顔色ひとつ変えない。この程度で動じられるほど、メビウスの心臓は弱いわけではない。
「では、モアという生徒も知っているか?」
「モア……。あ! プロスペクト第1位の子ですよね!! MIH学園が公表する評定金額は5億メニー!! ただし一学年なので評定金額ランキングからは除外されてて、でも仮にランキングに入ればキャメル先輩に匹敵する実力とみなされる可能性が高く、そろそろ始まる壮麗祭でも優勝候補の一角に挙げられてます!!」
──……。わしはもうすこし孫娘に興味を持つべきなのか? 時代に追いつけないと言い訳する前に。
そう思うメビウスだが、やはり顔に出さず微笑みを浮かべる。
「そうか。その子が私の妹だ」
「へっ!? バンデージさんはモアさんのお姉ちゃんなんですか?」
「そうだな。モアが高評価で嬉しいよ──」
「では御二方はあの蒼龍のメビウスの孫娘なんですか!?」
知っていると感じていたが、本当にメビウスとモアの関係を理解していた。メビウスは自分の存在意義を否定されているような気分になるも、「そうだ」と返事する。
「えーっ!! 私、メビウスさんに良くしてもらったんですよ!! 昔、家が隣でしたので!!」
ラッキーナは、まだメビウスが軍人だった頃の隣人であった。そのときメビウスが世話を焼いた──孫のモアと年齢が同じということもあり、しばしば遊び相手になったものだ。
「モアのことは覚えているのか?」
「んー。あのとき5歳とかでしたからね……。さすがに覚えてないです」
「正直だな。良いことだ」
「でも、あのときバンデージさんっていましたっけ? あそこでいろんなヒトと遊んだ気がするから、覚えてないだけかな……」
頭がこんがらがるけれど、いまのメビウスは『メビウスの孫娘』ということになっている。当人も結構頭を使い、ラッキーナと歩きながら心理戦を繰り広げているのだ。ラッキーナ側は世間話で友好を深めようとしているのだろうが。
「覚えていないだけだろう。子どもの記憶など曖昧だしなぁ」
すこし間を置き、メビウスはそう言った。
「ただMIH学園に入学すれば、またモアと再開できるぞ。そしてそれよりも、かなり緊張しておるのだろう?」
「え。なんで分かったの?」
「魔力の循環が悪いからな。普通のヒトが体調不良になったときのそれと同じ回り方をしているぞ?」
「魔力で体調が分かるんですか──分かるの?」
「大体の体調は、な。さて、気持ちを落ち着かせよう。そろそろ本校舎に着くぞ」
メビウスは白塗りの校舎を指さした。
いつか主人公をバンデージだと思っているキャラが彼女のことをメビウスって呼びそう……。
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