33 世界など掴めていないのだよ
「……あァ? 軍用機?」
「あれはロスト・エンジェルスのものだな。我々は暴れすぎたのかもしれん」
メビウスとクール・レイノルズは、大量のヘリが出す無数の羽根の音で一瞬正気に戻った。
ここまでの戦況としては、若干メビウスが押している。とはいえお互い無傷。どちらが勝ってもおかしくはない。
「おれの許可も取らずに軍を介入させるとァ良い度胸してるじゃねェか……アイツら。あとで詰めねェとな」
「しかし、まだ練度の低いレーダー網に引っかかるほど魔力を使った我々にも責任はあるのでは?」
「それはそうなんですけど、ほら、大統領ってのは最高指導者として威厳がなきゃいけないんっすよ」
「威厳などあるか? そのような砕けた喋り方で」
「そりゃもちろん……!!」
クールの身体にまとわりついていたマグマが溶け始めた。代わりに焼身自殺でもするかのごとく、彼は炎に包まれる。
「あるに決まってるじゃないですか!! おれァ天下の大統領!! 権威はこの掌にある!!」
その炎はまるでドラゴンのように変化していく。すべてを食らい尽くす怪物だ。もはや島の半分ほどの大きさとなったクールの火は、森林をほとんどすべて焼き払ってしまった。
「覚えてますかメビウスさん!! 15年前、ロスト・エンジェルスに最強の魔術師がふたり生まれた!!」
メビウスは冷静にドラゴンの化身となったクールの本体を見据える。超巨大な魔力が炎になっているから、生半端に突撃すれば焼け死んでしまう。
「時代の寵児になったふたりは別々の道を歩んだ!! ひとりはセブン・スターとして平和を守るという困難極まりない夢を掲げた!! そして……もうひとりは落ちぶれ鉄砲玉としてあしたの飯代を稼ぐ日々!!」
ただ、メビウスは呼吸を整えて突撃する構えを見せる。孤島の生き物たちが灼炎に晒され、やがて死に絶えていく中、それでもなおメビウスは額に汗ひとつ垂らさない。
「しかし、落ちぶれに落ちぶれたその男は諦めがとても悪い!! そこで前代未聞の国盗りを企み……成功させた!! アンタはおれたちにこう言ったよな!? 『君たちは世界を望むように変えられる、度し難い力を持っている』と!! だからここで宣言する!! おれは世界を変えてやったぞォ!!」
「いいや、君はまだ──」
膨大な炎の塊に、白髪の少女が単身突っ込んだ。
「──世界など掴めていないのだよ」
空間を引き裂き、メビウスはクールの本体へあと一歩のところまで詰め寄る。
その怪物たちの対決を間近で見ていたアーク・ロイヤルは、灼熱の中ぼやく。
「たぶん、クール大統領が勝ちました」
「え? まだ両者とも魔力が消滅していないですが?」
「すぐに大統領は魔術を解くはずなので、接近できるようにしておいてください」
その予言どおり、クールの起こした炎のドラゴンは実体をなくした。
アーク率いる魔術総合軍の大隊は、ハゲ山になった部分に着陸する。
そこでアークが見たものは、奇妙な光景だった。
「やはりこの肉体では若い頃の魔力が戻っても、長期戦には耐えられんな」
「でしょ? おれそれ知ってて消耗戦選んだもん!」
白い髪の少女と大統領が、岩に座りながら談笑していた。
きょうもひどい負け方したので呆然としてました。
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