32 領域内で戦争級の激突(*)
島の形を変えながら、メビウスとクールは接近戦から遠距離戦までを繰り返した。赤く青い6枚の翼と龍娘のトカゲのような翼がぶつかり合うとき、にわかにロスト・エンジェルス本土は揺れる。
互いに最上位の攻撃を万全な状態で仕掛けられるように戦闘する中、大統領のいない連邦中央委員会は緊急会合を開いていた。
「ロスト・エンジェルスの領海に浮かぶ島でふたりの魔術師が衝突しています!! ブリタニカやガリアが軍事介入の名目を得る前に止めるべきです!!」
「大統領はどこに行ったんだ!? 戦争級の事態だというのに!!」
「ああ、クソ! 大統領がいないのなら多数決で決定だ! 国内に残っているセブン・スターへ連絡することに賛成な者は!?」
大量の資料と目まぐるしく変わるパソコンの画面は、クール大統領がいない状況の恐ろしさを物語っている。彼らは集団催眠にかかったかのごとく、全員で一斉に手を挙げた。
「よし! 国内残留セブン・スターはアーク・ロイヤルのみだ! 中央委員会名義で直ちに命令をくだせ!!」
国防における切り札セブン・スターを切らざるを得ないほど、緊張が高まっている。
伝統的に敵対しているブリタニカ然り、かつては協力関係だったが革命で政局不安が続くガリア然り、なにかと理由をつけてロスト・エンジェルスへ攻め込みたい国はごまんとあるのだから。
そして、アーク・ロイヤルは授業中だというのに中央委員会から命令を受けた。
「……。領域内で戦争級の激突? 推定戦闘員はふたりだけ?」
ひとまず授業を抜け出し、金髪彗眼の女顔少年アーク・ロイヤルは自身の通う学校“MIH学園”の裏庭に停まっている軍用ヘリコプターの元へ向かっていく。
「クールくんもいないって話だし……もしかしてあのヒトと外患が闘ってる? 最近戦闘から離れて暇だって喚いてたし」
だとすれば、かなり難易度の高いミッションである。あのクール・レイノルズとやり合える相手がこの国に迫ってきているのだから。
「まあ、行ってみないと分かんないか」
ヘリコプターの前にたどり着き、アークは敬礼して学生服のまま戦地へ赴く。
「それにしても、この国は仮想敵国ばかりですね」
アークはヘリの後部座席にて、目の前で座っている壮年の軍人に話しかける。
「敬語なんてやめてくださいよ。アーク少佐。アンタには連邦国防軍の再編で生まれた『魔術総合軍』の大隊指揮権があるんだから」
「1000人を超えるヒトたちなんてうまく指揮できませんよ。儀礼的な意味合いしかないんだから。ぼくの階級なんて」
「つっても、今回の作戦はアーク少佐が大隊長ってことになってますよ」
「……。中央委員会は17歳の子どもに大隊を率いらせて大丈夫だと思ってるんですかね?」
「さあ。ともかく、そろそろ戦ですよ。理不尽な攻撃は少佐が交わしてくれないと」
十数機の軍事ヘリコプターが、謎の孤島へ到達した。
2位維持か、3位転落か。
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