30 さあ。本番、始めようか
「……。遠いな」
攻撃手段ならばあるが、同時に仕留めきれるとも思えない。クールが間合いを詰めてくるまで、あるいはメビウス自身が距離感を狭めるまで、膠着状態になってしまった。
が、メビウスの考えとクールの思考が一致しているとは限らない。
瞬間、炎の弓矢がメビウスから数センチずれた場所で爆発した。それらは10発、100発、1000発……と雪だるま式に量を増やしていく。
「私にこれを避けろと? クール、侮るのも大概にしてもらおうか」
メビウスは自身の半径10メートルの空間を引き裂いた。するとどうだろう。無数に向かってきていた弓矢が、クールの背後へ即座にテレポートされるようになってしまったのだ。
「あちィ!!」
大量のフレンドリー・ファイアを食らったクールを遠目で見て、メビウスは間合いを詰め始めた。その速度は戦闘機に負けずとも劣らない。
「……。なぁーんてね」
しかし、自分の攻撃を食らったように見えたクールは笑っていた。つまり、なにかしらの陽動作戦だったということになる。
そしてクールとメビウスの、190センチを超えた男と160センチ程度の少女の拳はぶつかった。
「魔力を抑えたほうが良いのではないか? この島はロスト・エンジェルスの領土にするのであろう?」
「えーッ。だって魔力の放出やめたらメビウスさんに負けちゃうじゃん」
「命までは取らん」
「まるで命以外はすべて奪うみたいな言い草ですね。またおれなんかやっちゃいました?」
「裏社会の連中とつるんで国家の最高指導者に上り詰め……なんかやったという次元では収まらん!!」
拳がぶつかる、と表現したが、その言い方は不適切だ。確かにメビウスとクールは殴り合うべく身体を動かしているわけだが、それらすべてに魔力が挿入されている。すなわち厳密には、拳はぶつかっていない。淀んだ魔力がメビウスとクールの拳の間に展開されていた。
「やっぱ知ってたンすか。大統領になってからもなんも言ってこねェから知らねェンかなって」
「悪びれる態度くらい見せろ。まあ良い。そろそろウォーミングアップは終わりだ」
「そうっすね」
クールは軽い口調だった。ここ十数年前線から離れていた伝説の英雄、しかもいまとなれば少女の姿をしている。正直、クールやジョンが憧れたメビウスの圧倒的理不尽性はまだ見られていない。
「よし……。行くぞ」
メビウスの元にさらなる魔力が集まり始める。カイザ・マギアを使ってヒトから魔力を奪ったか? いや、この島は無人島のようだし、なにか違う方法で魔力を集めている?
青い閃光がメビウスの周りに火花を散らす中、クールは思わず炎の6枚羽の翼を展開し、すべての翼を使って攻撃しようとする。
だが、すべてが遅きに失していた。翼は跳ね返され、メビウスは新たなる姿となってクール・レイノルズの前へ現れる。
「さあ。本番、始めようか」
龍娘になった老将軍がそこにいた。
タイトル回収です。西洋を舞台にしているのに『竜』ではなく『龍』なのは作者の趣味です。後者のほうがかっこいいじゃん?
いつも閲覧・ブックマーク・評価・いいね・感想をしてくださりありがとうございます。この小説は皆様のご厚意によって続いております!!




