29 かつて時代の寵児と呼ばれてた男っすよ?
メッセージだけでは分からないこともあるものだ。デジタル化が進む時代とはいえ、すべてが完璧に進んでいるわけではない。
けれど、クールはこの白髪少女のことを魔力だけでメビウスだと知った。
「分かるのか。さすがだな」
「そりゃおれァクールですから。かつて時代の寵児と呼ばれてた男っすよ?」
「ご機嫌な話だ。さて、手合わせに付き合ってくれ」
「いや、おれァ女には手をあげない主義なんで」
「ならジョンに頼もうかね──」
「中身はメビウスさんっすもんね! 見た目は可愛いねーチャンだけど、魂は蒼龍のメビウスのものですもんね!! よっしゃ! 稽古つけてもらいましょう!!」
クールとジョンは親友でありライバルでもある。良き関係だ。しかし、だからこそメビウスと再び相対できる権利を譲りたくはない。そんな考えが透けて見えるようだった。
「よし。孤島にでも移動しようか」
クールはその一言のみでメビウスが起こす行動を理解し、彼女の肩に手を乗せる。
随分柔らかい肩だ。なぜこんな姿になってしまったのか知らないが、あの師匠でもさぞかし苦戦しているに違いない。
とか考えていると、ロスト・エンジェルスの領土の一部に到達した。
「平原地帯っすね。調べてあったんすか?」
「いや、適当に決めた」
「だとしたらもう金星だ。ここ、連邦の支配権が及んでないところみたいっすよ」
携帯電話の電波が圏外になったのを見て、クールはニヤリと笑う。
「土地も痩せてないし、ワンチャン鉱物資源が出てくれるかもしれないし。ただまあ……」
クールに魔力が集中し始める。それは戦闘が始まろうとしているというサインだ。
負けまいとメビウスも首をゴキゴキ鳴らし、その衝撃で近くの木が数本折れた。
「ハゲ山にだけはしねェように努力しましょうや!! おれァ国に奉仕する大統領! その称号守るためには、もう退役した老将軍に負けるわけにもいかないんで!!」
クールはメビウスの想定通り、あたり一面を焼き払い、炎の海にした。火と煙が広がっている以上、地上に残れば中毒で死ぬのは確実だ。ならば空中戦に切り替えるしかない。
メビウスは地面を蹴り、空中高くに舞い上がる。そして即座に空間を切り裂き、地上にいるクールの背後を奪った。
「おっと。これくらいで降伏はしませんよ?」
が、クールが炎の泡のように消えた。メビウスは再び地面を蹴り上げ、クールを探す。
──おそらく実体を持たない炎の中に紛れ込んでいるのだろう。ヤツの魔術は炎そのものに同化してしまうところが強みなのだから。
火の中のどこかにいる。ならば、大炎上している地上を凍らせてしまえば良い。
メビウスは凍結の魔術を放った。それらは一瞬で浸透し、クールから逃げ場をなくす。
「ウぉ!? こんな簡単に凍らせることできンの!?」
メビウスから数百メートル離れた場所に、クールは姿を現した。
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