28 しぶいイケオジがなんで生娘に!?
かくして、メビウスは単身でクール・レイノルズのもとへ向かっていく。
「メビウスさん、目つきがガチだったな~」
「あたしたちは行かなくて良いんですか?」
「おれァ仕事があるし、モアちゃんが行くかは自分次第だ。まあもっとも……連れてってくれねェかもな」
耳が聴こえやすくなったメビウスは、その会話を拾っていた。
「モア、悪いがジョンの言う通りだ。わし……私ひとりで向かわせてもらいたい」
師弟喧嘩に孫娘を巻き込めるか、という話である。これから起こることは、いわば戦争級の殴り合いだ。そんな場所に最愛の孫を連れて行くわけにはいかない。
というわけで、メビウスは空間を引き裂いて大統領府へ飛び立っていくのだった。
「え? おじいちゃんいなくなっちゃった」
モアがポカンと口を開けていると、ジョンが発奮したかのように説明を始める。
「すげェ……!! やっぱり空間支配は健在なんだ。なにも存在しない場所を引き裂き、空間移動を自在に行うメビウスさんの移動術式……!! すげェなぁ。やっぱあのヒトすげェよ」
「空間移動? 空間支配? じゃあ、おじいちゃんはどこ行ったんですか?」
「そりゃもちろん、クールの居場所だろ」
「へ? それって20キロメートルくらいワープしてることになりますけど?」
20キロメートル。おおよそハーフマラソンと同じ長さである。なお、そのマラソンの平均タイムは2時間弱といったところか。
「全盛期は100キロメートル移動できた御方だぞ? モアちゃん、メビウスさんを過小評価し過ぎだ」
「そこまで来ると意味分かんないです……。あたし、まだおじいちゃんへの愛情が足りなかったかも」
*
「おい!! なんだよいまの魔力は!!」
「カイザ・マギアは使われていないんだよな!? ただ魔力に睨まれて気絶してるのか!?」
最初から魔力を全開で進んでいったほうが楽だ。クールがメビウスの魔力を感知できないはずがないのだから。
しかし弊害もある。防御していない相手からすべての魔力を抜き取る術式『カイザ・マギア』を使っていないのにも関わらず、淀んだ魔力が自由解放されている大統領府前公園の木をへし折り、わしに睨まれたと錯覚した者が倒れ込む。
とはいえ、危害を加えようというわけではないので、公園のベンチに座りながらクールが出てくるのを待つ。
「オラァ!! 誰じゃ大統領府前公園を荒らしたバカタレはァ!! おれへの宣戦布告か!?」
日陰に入ってのんびりしていると、そんな大声と6枚の炎の翼が見えた。そしてその翼のひとつはメビウスを焼き殺すために凄まじい速度で伸びていく。
「……。ふむ」
メビウスの右手の爪が、空想上の世界にしか存在しない“龍”の爪に変わる。腕にはうろこが生え始め、数パーセントほど龍王……いまの姿では龍娘となった。
そして一直線に伸びてくる炎の翼に向け、メビウスは右腕を思い切り振るう。
ボオ……。という音は炎がしなびたことを決定づけた。
ここで背丈が高くて男前な茶髪の教え子クール・レイノルズはメビウスの正体に気がつく。
「メビウスさんじゃないですか!! しぶいイケオジがなんで生娘に!?」
(覇王色の覇気みたいなことやってる……)
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