26 まだメビウスさんは迷ってるんだよ(*)
『……スターリング工業、だぁ?』
電話先のジョン・プレイヤーはしばし黙り込む。なにか禁句でも言ってしまったのか、とモアは顔を青くする。
が、やがてジョンが喋り始めた。
『良いか、モアちゃん。スターリング工業ってのは反社会的勢力だ。そんなところから薬なんて買っちゃダメだぜ? まあ、メビウスさんには伏せておいたほうが良いかね』
「え? だって、あの会社は大統領のクールさんが所有してるんですよね? そこが反社会的? どういうことですか?」
『そこらへんの関係図が見えないのなら、ますます伏せたほうが良いな』
ジョンは意味深長な態度で語りかけてくる。彼は続けた。
『ともかく、警察署へ出向こう。モアちゃんは性別が入れ替わって若返る謎の薬を持ってくるように』
「は、はい」
モアは疑問符を浮かべながら、身支度を始めた。
*
セブン・スターのジョン・プレイヤーが謎の少女を迎えに来る。この大ニュースを耳にした警官たちは、やはり取調室で足をパタパタさせながら座っている白髪少女が只者でないことを知る。
「やっぱり転生者なのか?」
「いや、ジョンさんの子どもかもな。あのヒト、33歳なのに16歳の息子がいるらしいし」
「とにかく、おれたちの管轄内じゃないってのは事実だ」
実際、この白髪碧眼の少女が暴れ始めれば、この街の警察が全員束になっても敵わないだろう。簡素な身体検査ですら、魔力量の高さが飛び抜けていたからだ。何度も死を意識しなければ到達できない高みに、この少女は君臨している。
「つか、あれじゃね? 転生者だけど義理の娘にしてて、届け出してないパティーン」
「ありうるな。転生者って連中はみんな、おれらに監視される羽目になる。ジョンさんがそれに耐えられるか? 耐えられねェと思うね」
そんなおしゃべりを交わす警官たちの元に、大きな青年と小さな少女が現れた。彼らは揃いも揃って、慌てながら金髪にサングラス、髭面の男に敬礼する。
「ジョ、ジョンさん!?」
「よう。そこン子がおれの娘でないことと、転生者でもないことを教えに来たぜ」
「へ? じゃああの子は一体何者で?」
「オマエらはクチが軽そうだから教えねー。上のモン呼んでこい。必ず納得させてみせるからよ」
「わ、分かりました」
ジョンに圧倒され、逃げるかのごとく署長を呼びに行った警官たちを尻目に、モアはドア越しにメビウスを確認する。
「おじいちゃん、寝てるし……」
「ご老体だからなぁ」
「でも見た目は完璧美少女じゃないですか?」
「モアちゃん、昔教えたはずだぜ? 魂と肉体は別のモンだって。まだメビウスさんは迷ってるんだよ」
「迷う?」
「いっそのこと存在しなかった青春とやらを取り戻すか、このまま魂を自然に解放して亡き同胞たちへ会いに行くか、ってところかねェ」
もう未来がない身だと割り切っていたメビウスだろうが、実際肉体は若返っているのだから、これからさらに数十年生き直すことも可能だ。
ただ、それは苦しみから逃れる手段を数十年間失うだけではないのか……とも考えているはずなのだ。
クソみてェな天気なので更新します。
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