25 わ、私と一緒にメイド・イン・ヘブン学園へ行きませんか!?
いまから約10年前に亡くなった妻、バンデージ。一度も予備役に入らず、前線で生き続けたメビウスと彼女が一緒にいられた時間は長くない。だからこそ、メビウスはバンデージの笑みが印象的だった。こんなに愛らしいヒトを放っておいて、戦争に従事することは正しいことなのか考え込むほどに。
「……?」
ラッキーナは怪訝な表情になる。自然な顔色だ。先ほどまで表情が強張っていたからか、彼女がバンデージに瓜二つであることに気がつけなかったのであろう。
「ああ、なんでもないよ。それにしても、このスマホは手でジェスチャーして画面をつくるのか?」
「あ、うん! 腕時計がセンサーになって、ディスプレイが浮き上がってくるんだ! しかも良く分かんないけどよそ見防止機能もついてる! け、結構近寄らないと見えないでしょ?」
一瞬完全に物思いに耽ってしまったから、話題を逸らすためにすこし気になったことを訊いた。
ラッキーナの持っている携帯電話のように、奇妙な進化を遂げたものの存在はロスト・エンジェルスでは普遍的な話だ。この国には世界一の技術と魔術が集っているのだから。
「ああ、そして私はすこしお世話になってくるよ」
ようやくメビウスを誘致する方法が思いついたようだ。抵抗するつもりもなかったが、ヒトの心まで読める者は限られてくるので、仕方のない処置というものだろう。
「あ、あ」
すでに手錠をかけられていたメビウスは彼女の方向を向く。
「どうした? 今生の別れというわけでもないだろう」
「あ、あ、あ、あの、バンデージさん! わ、私と一緒にメイド・イン・ヘブン学園へ行きませんか!?」
仮にも逮捕される場面で伝えることでもないだろうに。突拍子のないことを言い出すのも亡き妻そっくりだと思いつつ、メビウスはラッキーナにウインクした。
「さて、さっさと連行してくれ。きょうは大事な約束があるのだ」
「生意気なクチ叩くガキだなぁ……」
「まあ、まあ……。悪意があるようには思えませんし、転生者かもしれないですね」
そんな会話を交わし、メビウスは人生で初めて逮捕された。
*
「もしもし!! ジョンさん! おじいちゃんが逮捕されたって本当!? 発砲の上に転生者だって疑われてるって!?」
『落ち着け、モアちゃん。メビウスさんは逮捕こそされたが、まず起訴されない。強盗犯の手ェ撃ち抜いただけで裁判かけてたら、留置所と刑務所がいっぱいになっちまう』電話越しのジョン・プレイヤーは落ち着いた口調で、『ただまあ、転生者という疑いは難しいな。それはモアちゃんにしか証明できないんじゃないか? メビウスさんが女子高校生くらいの子どもになっちまったことは』
「だったら証明するよ! ブリタニカからスターリング工業が強奪したっていう“若返り”の薬に性別が入れ替わる成分つくって入れただけだもん!」
クソみてェな負け方したので更新です。
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