2 まだまだ引退するには早いよ
ぐるぐるメガネをかけて白衣を着ている金髪のモアは、そういう変なものを創り出すことに執念を燃やす気質だ。
「面白いものを創ったみたいだな。だが、具体的にどんな用途に活かせるのだ?」
「分かってないなぁおじいちゃん! 世の中おカネ払ってでも女の子になりたいヒトだっているんだよ?」
「分からないなぁ。そんなヒトたちの気持ちなど」
「でさぁ!! このお薬若返り効果もあるんだよね~! だからおじいちゃんみたいなヒトにも使えるよ!!」
「別に若返りたいなどとは思っていないが」
「えーっ!? 若返りたくないの?」
「ここまで来たことに満足しているからな。再評価は望まん」
「ちェッ!! つまんないこと言う~。でもさぁ──」
長々と話し込んでしまった。なぜあの孫娘はメビウスを女にしたがるのだろうか。あの子は長女の娘だから、ひょっとしたら母親がいなくて寂しいのかもしれない。
そう考えると最後の孫孝行として『性別変換剤』を飲んでやっても良い気がするものの、若返る効果までついているのが気に食わない。
というわけで夜の10時になった。そろそろ薬を飲んで寝る時間だ。
「人類最強、ロスト・エンジェルスの英雄、蒼龍のメビウスと呼ばれていても、老いにはどうしても勝てんな」
どんなに健康へ気を使っていても、7個薬を飲まないといけないと医者に口酸っぱく言われている。それこそ仕方のない話ではあるが、同時に退役することの後押しにもなってしまった。
「本当は生涯現役でいたかったがな」
薬を取り出し、コップ半分ほどの水で流し込む。それから1時間後、メビウスはベッドに入って眠り始めた。
*
「おじいちゃん……老いたねぇ。どんなときでも細心の注意を払わないといけないのにねぇ」
モアの嫌味ったらしい声とともに目を覚ます。仰向けに眠っていたメビウスの目の前には、手鏡が配置されていた。
「……。モア。わしが衰えたことを知っていた君の作戦勝ちだよ」
白い髪には紫のグラデーションが入っている。目鼻口すべてがケチのつけようのないほどに整っており、長女が子どもだった頃を彷彿とさせる。小顔で目の色は青い。最前発した声は聖歌隊の少年のように美しいものであった。
「きのう飲んだ薬の中に、その性別変換剤とやらを入れたのだろう? まったく、いたずら好きなのもほどほどにしておけよ?」
「ありゃ。怒らないの?」
「注意しなかったわしが悪い。気づいていたら君を鉄拳制裁していただろうがな」
メビウスは立ち上がり、かつて180センチほどあった身長が160センチくらいに縮んでいることを確認する。体型はスマートだが、これでは戦闘において役立つとは思えない。
「ねえ、おじいちゃん」
「なんだ?」
「まだまだ引退するには早いよ。母ちゃん父ちゃん、おじさんの分まで働かないと!」
メビウスは微笑を浮かべ、「そうかもな……」と返事したのだった。
とりあえずTS化までドーン!!
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