久遠が解放される
「私彰人様がホテルから出て行ったと聞いてずっと探していたんです。どこを探しても見つからなかったから不安で仕方ありませんでした」
「それはごめんでも君から俺宛へのこんな便箋を受け取ったから」
ずっと持ち歩いていた便箋を御嬢瑞希に手渡す。彼女は内容を確認する。
「彰人様、実は私こんな便箋や彰人様にこれを書いたのも私ではないですし彰人様に手渡すよう指示した記憶もないのです」
「そんなそれじゃ一体誰が」
「私には一人だけ思い当たる人物がいます。それは久遠様ですもしかしたらこれは全て久遠様の自作自演だと……」
「それはないよ」
便箋とは別の封筒の中に縄に縛られている久遠の写真を見て御嬢瑞希も少し焦った顔をした。
「分かりましたこの件は私も全力で力を貸しますなので彰人様はもう少しの間休まれてくださいお顔がまだ優れていません」
「いや、俺が休む訳にはいかないよ犯人から次の連絡はこのスマミフォンからするって言われてるんだ、もし俺が休んでる間に連絡がきたら」
「安心してください、その場合はすぐに彰人様を起こします、逆にもしこのまま倒れたりでもしたら彰人様は後々後悔なされますよね」
確かに御嬢瑞希の言う通り今後もし俺が倒れでもしてその時に犯人からの連絡を怠った場合最悪久遠の命も危うい。
「分かった少し休むよ」
「彰人様が理解なされてくれて嬉しいです。そのままベッドでお休みしててください、私は彰人様が起きた時ように少しご飯の準備をして参ります今の彰人様のお体普段よりもやせ細っていますからそれとスマミフォンは私がお預かりしてもよろしいですか、万が一もありますので」
「ああ、頼むよ」
スマミフォンを御嬢瑞希に預ける。御嬢瑞希の言った通り相当疲れが溜まっていたのだろう俺が次に起きた時には半日が過ぎていた。
「彰人様、起きてください彰人様」
揺さぶられ目を覚ます。寝る前の記憶があり俺を起こしているのは御嬢瑞希だと分かるとすぐにベッドから起き上がる。
「もしかして何か連絡がきたのか」
「はい、つい先程メールが届きました」
メールの文には時間と指定場所だけが書かれていた。
「一時間後に河川敷」
この家からそう遠くない所に河川敷があるだがただ時間と来いと言う文字だけのメールに少し違和感を覚える。
「彰人様、相手の目的もまだ分かりません決して一人で行ってはなりません」
「いや行くよ、このまま行かないと久遠だって何されるか分からない」
「でしたら私も一緒に」
「悪いけど御嬢財閥のお嬢様をそんな所まで一緒に行かす訳にはいかないよ」
俺は御嬢瑞希の静止を前に家から飛び出し河川敷へと向かう。河川敷に着き相手からの連絡を待つ
「おかしい」
河川敷に着いてから一時間経ってもスマミフォンには何の連絡もない。そして約三十分後連絡が入る相手は非通知なようだが即座に通話ボタンを押して出る。
「もしもし」
相手からの返答を待つと意外な人物の声が発せられた。
「彰人様申し訳ありません」
この声に俺を様と呼ぶのは一人しか思いつかなかった御嬢瑞希だ。
「もしかして君が久遠を」
「誤解なさらないでください私は久遠様を攫ってなんておりません、彰人様が寝てる間に勝手ながらスマミフォンを別のと入れ替えさせていただきました。そして先程嘘の連絡を入れて彰人様にお伝えしましたが彰人様は思った通り一人で河川敷へ向かわれましたね」
「なんでそんな事を」
「実は彰人様には黙っていたのですが、今回の久遠様の件で私は久遠様の自作自演とは違いもう一人怪しいと思う人物を考えていました。そしてまさに私の思った通りの人物から指示があり今その場所に着いた所です」
「そこはどこなんだ言ってくれ俺もすぐそこに」
だが御嬢瑞希は何の返答もせずに通話を切った。
「にいに……?」
俺の前に目が虚ろでボロボロの久遠が現れた。久遠は俺の所まで辿り着く手前で倒れ込む所を慌てて駆け寄り抱き止めた。
「本当に本物の久遠なのか?」
「にいに何それ、私が偽物だって言いたいのめっちゃ失礼だよ」
久遠は微笑みながら答える。こうして久遠と再会できたのは本当に嬉しい、だが久遠は体中ボロボロで傷も何ヶ所もある。
「悪いけど久遠、今だけ聞きたい事が一つだけある。なんでここにいるんだ」
久遠と会うことができたのは本当に嬉しいだが攫われた久遠がここにいるのが謎だ。
「私もわかんない数時間前までは暗い部屋に閉じ込められて、ずっと縄で縛られてたから。でも何かで眠らされてそしたらにいにが目の前にいて」
俺には一つだけ思い当たる事がある。御嬢瑞希だ。
彼女はついさっき連絡で久遠を攫った人物から指示の連絡がありそしてその場所に着いたと言っていた。
そして嘘の場所である河川敷に連れてこさせたのも御嬢瑞希だ。もしかしたら犯人と取引をして久遠を解放できたのかもしれないが納得出来ない事がある。
それが久遠が解放できたにも関わらず御嬢瑞希はなんで犯人の指示場所に行ったか。
「久遠まず先にお前を病院に連れて行くよ」
「ありがとうにいに」
俺は久遠を後ろに背負い走るこの河川敷から病院までは歩いて数分の所にあるもしかしたら御嬢瑞希はそこまで計算して俺をこの場所に連れてきたのかもしれない。
今は久遠を急いで病院まで運ぶそれだけを考えた。




