GWの予定
次の日影華さんは何も言わずに家から出て行っていた、置き手紙だけ俺の部屋の机に残されていた。手紙にはバイバイ彰人と一言と最後の文に影華さんの名前が記されていた。
「おはようにいに」
「おはよう久遠」
久遠はリビングのキッチンで朝食を作っていた。久遠に朝の挨拶をしてリビングのソファに座る。
「にいに明日からGWだよね」
「え……ああそうだっけ? 最近色々あって忘れてた」
「もうしっかりしてよね、それでさにいにGWのこの日だけどにいに予定とかある?」
久遠は朝食を作り終わるとリビングの机に置いてあった卓上カレンダーをソファに座る俺の所まで持ってくる。
「別に暇だったと思うけど」
「良かった、この日ライバルリベンジの番外編を映画館で上映するらしいんだ、上映がこの日限定らしくてにいにと一緒に観に行きたいんだけど」
「まぁ予定とか特になかったし別にいいぞ」
「やったー、それじゃあにいにこの日はね朝早くから出て映画観てお昼食べてそれからそれから」
「わかった、わかった。その日は夕方近くまで遊ぼうな」
飛び跳ねる久遠を落ち着かせて、久遠が作ってくれた朝食を食べる。
「そういえばにいに影華さんは……? 昨日ソファで寝てたはずなのに朝リビングに来たらいなかったんだけど何か知ってる」
「俺の部屋に置き手紙残して何も言わずに出ていったようだな」
「そうなんだ、けど何も言わず出て行くなんて」
「まぁ影華さんの性格を考えれば当然だな」
昔道場に通っていた時も影華さんにはたまに稽古と偽り何十キロ先にある山まで師範に内緒で同行させられ一緒に走っていた思い出がある。
で帰ると影華さんだけが師範にゲンコツを喰らい説教させられているのを間近で見ていたのだ。
今回の家出に関しても師範に黙っているらしいし、影華さんはやっぱり昔から変わっていない。
「にいに、ねぇにいに聞いてる」
「なんだ久遠?」
昔の事を考えてたら久遠に呼ばれる。
「これお弁当、忘れないようにね」
「ありがとう久遠」
久遠から弁当箱を受け取り、学校の制服に着替えて鞄を持って玄関の外に出る。昨日一昨日と玄関前にフェラーリや白いリムジンと黒いリムジンが止まっていたが今日は何も止まっていないし誰も玄関前にはいないのでゆっくりと学校に行ける気がしていたのだが。
「おっはようございます彰人さーん」
朝一番から元気よく挨拶して駆け寄ってくる湊心愛、加えてその後ろには湊心愛親衛隊と書かれたハチマキを頭に巻く謎の集団が道路を塞いでいる。
「ちょちょちょ!! 無視しないでくださいよー!?」
「いや、あのね、まず何から話せばいいか。俺さ君に住所教えてないよね?」
「住所なら愛刀さんに教えてもらいました、言ってませんでしたっけ……? ほら私彰人さんが通ってる高校の演劇部にこれから通うって昨日言ったじゃないですか、それって愛刀さんの紹介なんですよね。でその時一緒に住所聞いてみたんですよ。最初愛刀さん全然教えてくれる雰囲気じゃなかったんですけど、押し続けたら教えてくれました」
今度愛刀さんに会ったら他のアイセブンメンバーに住所を教えないように注意しておこうと決意する。だってこんな住宅街に何十人という集団が集まれば迷惑にも程がある。
「うんまぁそれは分かったよ、それじゃあ次に後ろの人達は誰かな……?」
「この人達は、まぁ私のファンの方ですね。いつの間にかここに来る間に私の事変装を見破って付いてきたようですね」
確かに今の湊心愛はサングラスをかけマスクを身に着けている。だが傍から見ればそれは怪しい人物で、その変装でバレないと思わない方がおかしい。
「少し待っててくれますか、すぐに追い返すので」
湊心愛は集団に近付くと、少し話している。そしたら突然集団は散り散りになり俺と湊心愛の二人になる。
「お待たせしました」
「それじゃあ最後にいきなり会いに来てなんの用かな」
住所と後ろにいた集団については解決した、だが最後に気になっていた事を湊心愛に聞く。
「今日来た理由ですか。ほらこの前彰人さんに握手会の話しましたよね、それを今日は聞きに来ました」
握手会、そういえば握手会の券を貰ってたっけ。一度財布を取り出して入っていた握手会の券を見ると明後日の日付が握手会の券に書かれている。
「前は予定がなければ来てくれるって言ってましたよね? どうですか」
湊心愛は不安そうに聞いてくる。久遠と約束した映画は別の日だし、この日は予定とかも何も入ってないので一日中暇だ。
「ああ、別に予定とか入ってないから……そうだね行かせてもらうよ」
「それじゃあ当日楽しみにしておきますね」
湊心愛はそれだけ聞きたかったのか、俺が答えると近くに待たせてあったタクシーに乗り込んで走り去る。
「にいになんでまだこんな所にいるの、先に出たからもう行ってると思ってたのに」
「いや今まで人と話していて今から行く所だったぞ」
久遠が玄関の扉を開けて外に出て俺がまだいた事に気付き声をかけてきた。
「そうなんだ、行ってらっしゃい、にいに」
「久遠もな」
久遠と別れて学校の通学路を歩く、学校に着いて教室に行くと翔也が席に座っていた。




