結婚を迫られる
「いやーでも本当に久しぶりだね彰人、どう元気にしてた」
駆け寄ってきた影華さんはいきなり頭を撫でてくる。この人は長門影華さん俺が昔通っていた道場の師範の娘さんで俺の姉弟子だった人だ。
「影華さんこそ、なんでここに」
影華さんが住んでいるのは隣町だったはずだ。なのになんで影華さんがこの街にいるのか聞く。
「んーちょっとね、でも彰人見ない間に随分男らしくなったんじゃない」
影華さんは腕を使って俺の身長と自分の身長を比べて背伸びする。道場に通っていた頃は影華さんの方が身長が高かったが、今では影華さんの身長を抜いて俺の方が見下ろす立場になってしまった。
「いや影華さんの方こそ、前までスカート履くとかありえないって言って毎日ショートパンツばっかり履いてたのに、なのに影華さんがミニスカートを履いてるなんて」
「まぁ色々あるのよ、それでさぁ彰人」
いきなり声を変えて、俺の顔を影華さんは自身の胸に押し当てる。
「今日彰人家に泊めてくれない……?」
「にいにお帰りー」
玄関の扉を開けて久遠の声がリビングから聞こえる。久遠はリビングの扉を開けて玄関にやってくるが俺の後ろにいる人物を見て、視線を送る。
「久遠ちゃんだよね……? 覚えてるかな? 私彰人が通ってた道場の師範の娘なんだけど。何回か道場で会った事あるよね」
「はい一応……覚えてはいます」
「実はたまたまスーパーであってさ、色々あって今日泊める事になった」
「えぇ!? もうにいにと私の分しか夕飯作ってないよ」
「ごめんね、それに私は夕飯いらないから気にしなくていいよ」
「大丈夫です。すぐに準備するんでにいにとリビングで待っててください」
いらないと言う影華さんの言葉を久遠はすぐに返答してリビングに行く。俺と影華さんも久遠に続いてリビングに入る。
「久遠これ頼まれてた物だけど」
久遠がキッチンの冷蔵庫の中を確認している時に頼まれて買った食材やらアイスの入った袋を久遠に渡す。
「ありがとうにいに。あと今度からはちゃんと一言電話してよね」
「ああ悪かったよ」
久遠に謝ってリビングに入ってキョロキョロしていた影華さんを椅子に座らせる。
「それで影華さん、家出したってのは本当なんですか?」
「うん、それは本当だよ。だって父さんが悪いよ、私は昔から自分より強い男じゃないと付き合わないって言ってるのに、勝手に見合いさせられてさ。しかも手合わせしたら一撃で気絶しちゃうし」
家に帰る前に歩きながら影華さんと話していたが、どうやら影華さんの住んでいる道場の経営が困難な状況になったようで、それを危惧した影華さんの父であり師範が影華さんの金持ちの坊ちゃんと見合いをさせたらしい。だが乗り気じゃなかった影華さんは自分に勝ったら結婚してあげると言い出し。
まぁでも聞かなくても分かるように影華さんに勝てる男なんて探してもいるかいないか位だ。だからそんな金持ちの坊ちゃんに負ける影華さんではなかった。
「でもさすがに師範に何も言わずに家出するなんて、これからどうするつもりですか?」
「実はね昔父さんと別れた母さんがこの街に住んでいるんだ。だからしばらく母さんの所に住むつもりでこの街に来たんだけどね……一つだけ母さんの住んでる住所ど忘れちゃってさ、それでスーパーの所でうろうろ歩きながら考え事してたら男に声掛けられてその後は彰人も知ってるよね」
影華さんが話すと急にキッチンから物音がして振り返る。久遠が作り終わったフライパンを洗っている最中だったらしくそれが落ちた音だった。
「大丈夫か久遠?」
「うん平気、夕飯できたからにいに運ぶの手伝って」
久遠に頼まれて、盛り付けられた皿をリビングの机へと運ぶ。今日の料理は昨日に引き続きカレーだ、だがカレーの上には切られたとんかつが数枚のせられていた、どうやら久遠が帰って来る前にとんかつを揚げてくれていたようで今日はとんかつカレーだ。
「まさか本当に私の分まで作ってくれるなんて」
「まぁお肉は余ってたので、残念ですけどカレーは二人分しか用意できなくて」
「ううんこれで十分だよ。ありがとう久遠ちゃん」
とんかつカレー二皿と、とんかつとサラダが盛り付けられた皿を机に置いて俺と久遠も座る。手を合わせて三人で道場に通っていた頃の話をしながら夕飯を食べて食べ終わったら昨日同様食べ終わった皿を洗う。
「彰人……」
皿を洗っている最中、風呂から上がった影華さんがキッチンまで来て後ろから抱きついてきた。
「彰人さっき話した見合いの事だけどね。私……彰人となら結婚してもいいかなって彰人が道場に通っている時からずっと思ってたんだ、だから彰人が道場を辞めるって言い出した時は凄く残念だったな」
「影華さん……それどういう意味ですか」
「もう分かるでしょ彰人、私と結婚してって言ってるの」
まさかこんな急に影華さんにプロポーズされるとは思ってなかった。いやまず影華さんが俺を好きだなんて知らなかった。
「にいに、冷凍庫にある買ってきたアイスクリームちょうだい」
いきなり久遠がリビングに入ってきた。影華さんは何も無かったように俺から離れる。冷凍庫から今日久遠に頼まれて買ってきたアイスクリームを冷凍庫から取り出して久遠に手渡す。
「何かあったのにいに?」
「いや……別に何も」
久遠には嘘を吐いて、影華さんはリビングのソファに横になっていた。




