演劇部の特別ゲスト
白いリムジンの中で座っていたのだがいきなり久遠がおかしな行動に出た。
「久遠一体どこに座っているんだ?」
久遠は何も言わずいきなり俺の膝の上に座ってきたのだ。
「にいにの膝の上だけど?」
久遠はとぼけず素直に答えたが膝の上から降りる気配が全くない。そして久遠が膝の上に座ってきてから両隣に座る御嬢瑞希と櫻木姫華の視線が俺に向く。
「兄妹仲がよろしいのはよい事ですね」
「確かに櫻木姫華さんの言う通りですね、私は一人っ子だったので正直久遠様が羨ましいです」
案外二人は動じず微笑んで答えていた。数分して花菜葛女子の校門前に白いリムジンは停車する。
「ほら久遠もう着いたぞ、そろそろ膝の上から降りろ」
久遠は不服そうに膝の上から降りて白いリムジンのドアを開いて白いリムジンから降りる。
「彰人様、少しよろしいですか?」
御嬢瑞希が降りる前に声をかけてきた。
「櫻木姫華にはお気をつけください」
それだけ教えると御嬢瑞希も白いリムジンから降りて待っていた久遠と共に校門を抜ける。二人を見送った後に白いリムジンはまた走り出す。
「城田さん、御嬢瑞希さんが降りる前に何を言われたんですか」
「いや、そんな大した事じゃないよ」
御嬢瑞希が降りる前に櫻木姫華に気をつけろと言われその事は櫻木姫華に言わなかった。
「城田さん着いたみたいです」
白いリムジンが俺達が通っている高校の校門前に停車する。櫻木姫華がドアを開けて降りる。後に続いて降りると登校中の生徒達の視線がいきなりこちらに向く。
「おい、あれ」
「なんで下級生があの転入生とリムジンで登校してきてるんだ? それによく見たらあの下級生って」
「城田さん、どうかなされました」
「はは……どうやら皆俺達の噂話をしているみたいだな」
櫻木姫華と二人で歩いて校門を抜ける。この高校に通いだしてから数週間経ったが目立ってばかりな気がするのは俺の気のせいか?
「城田さん、昨日話してくれた演劇部の件考えさせていただいたのですが、もしよろしければ今日見学したいのですがよろしいでしょうか」
「そっか考えてくれてたんだ、いいよじゃあ俺から王子道さんに伝えておくよ」
「はい、ありがとうございます」
教室に向かっている最中、櫻木姫華が昨日話していた演劇部の話をしてくれた。王子道先輩も前に話した時は部員を欲しがっていたからきっと喜ぶだろう。
昼休み櫻木姫華から昼に誘われていたが断って上級生の教室にやってくる。
「やぁ彰人君、上級生の教室に来るなんて珍しいね」
「えっと王子道先輩に話がありまして」
教室に入って早々、集まっている女子生徒達を掻き分けて中心の席に座りサンドウィッチを食べていた王子道先輩に声をかけられる。
「僕に話?」
「はい、あの演劇部を見学したいって女子生徒がいるんです」
一応櫻木姫華の名前だけは伏せておいて、王子道先輩に話す。
「うん、彰人君が誘ってくれたんだったらいいよ、しかも今日は特別ゲストが二人程来る予定だからね」
「特別ゲストですか」
「まぁ一人は多分彰人君でも知ってると思うよ、もう一人は、ほらアレックス君の妹だよ」
「アレックス先輩の妹さんって確かまだ中学生でしたよね?」
アレックス先輩から妹がいるとは聞いていたが、まだ会った事はなかった。
「実はアレックス君の妹がこの高校に興味があるみたいでね来年に受験する事になってるんだけど、今日は演劇部の活動を知りたくて来るみたいだよ」
「もう一人は、俺でも知ってるって言ってましたけど?」
「それは部活の時に言うよ、それじゃあ彰人君また放課後にね」
「はい、失礼します」
王子道先輩に頭を下げて上級生の教室から出て行って教室に戻る。今日は購買や学食に行く必要はない、だって久遠が弁当を作ってくれたんだから。
「美味しそうですね」
弁当箱の蓋を開けていざ食べようとしていたら隣に座る櫻木姫華が弁当を覗きながら声をかけてきた。
「もしかして城田さんがお作りになったのですか……?」
「いや違うよ、俺が寝てる間に久遠が朝早くから起きて作ってくれてたみたいなんだ」
「まぁあの妹さんが?」
「そうだよ、実は昨日から父親が出張に行ってて、母親も父親が心配でその出張先に付いて行って、今久遠と二人で暮らす事になったんだよ。で久遠に聞いたらこれから毎日作るみたいなんだよ」
「本当に兄妹仲がよろしいですね」
櫻木姫華は微笑んで答える。別に弁当を作るだけで兄妹仲がいいなんて言えるのだろうか?
「そうだ王子道先輩に今日の放課後演劇部の見学を頼んだら了承してくれたよ」
「ありがとうございます。楽しみにしておきます」
すぐに久遠が作ってくれた弁当を食べ始める。食べ終わる頃昼休みが終わりを迎えチャイムが鳴る。
午後の授業も終わって放課後になり櫻木姫華を連れて体育館へと向かう。体育館に入ると何人かの演劇部に所属する同級生や上級生が集まっていた。
「やぁ諸君、紹介するよ。この子は僕の妹のアレックス美空。今日は演劇部の活動が気になって来てくれたんだ、仲良くしてやってくれ」
「アレックス忠の妹のアレックス美空です。よろしくお願いします」
アレックス先輩の妹さんが頭を下げて挨拶すると周りから拍手が飛び交う。見ればアレックス先輩の妹さんはアレックス先輩と同じ青色の目に茶髪のボブカットにどこかの中学の制服を着ていた。
「それともう一人今日は来てくれる予定なんだが……どうやら遅れているらしいね、それじゃあ諸君今日もよろしく頼むよ」
アレックス先輩の指示で皆が持ち場に行く中、アレックス先輩の傍に寄る。
「アレックス先輩、王子道先輩は?」
「王子道さんなら急遽部活活動報告会に呼ばれてね、でもその子の事は聞いてるよ。演劇部の見学をしたいんだって、城田君はこの前の小道具作りの続きを頼むよ、彼女は僕が案内するよ」
「兄さん私は?」
「美空は……そうだ城田君に同行したらいいんじゃないか、確か小道具作りに興味を持ってたろ」
「うん確かに興味を持ってるけど……よろしくお願いしますね城田さん」
櫻木姫華をアレックス先輩に預けて、アレックス先輩の妹を連れて体育館横の扉を開けて入るとつなぎを着た上級生達が既に小道具作りを始めていた。
「どうもこんにちは」
小道具作りをしていた上級生達に挨拶をして、この前作り途中だった小道具の剣が入ったダンボールを取り出す。
「これ全部城田さんが作ったんですか?」
隣にいたアレックス先輩の妹に質問された。
「うんまぁね、最初作り方を教えてもらって今は色を塗っている途中なんだよ。ちょっと待っててくれる俺もつなぎに着替えてくるから」
「あ……はい」
そう言ってアレックス先輩の妹さんを待たせると体育館の二階にある演劇部専用のロッカーからつなぎを取って制服の上からつなぎを着て戻る。
「お待たせ、それじゃあ今から色々教えていくね」
体育館の壇上に新聞紙を数枚拡げて置く、そしてペンキと筆を準備して、まだ色塗り途中の小道具の剣をダンボールから一つ取り出す。
「そう、上手いね美空さん。一回説明しただけなのにもうコツを掴んでるよ」
「城田さんが教えてくれるのが上手だからですよ」
アレックス先輩の妹さんに小道具の剣の色塗りを説明して一度任せる事にしたが、俺よりも断然に手先が器用で小道具の剣の色塗りは塗り残しなどなかった。
「城田さんあれって衣装を作ってるんですか?」
「そうだよ、演劇部の衣装は全部あの先輩が手作業で作ってくれてるみたいだよ、何衣装作りに興味でもあるの……?」
「はい、そうなんです」
「いいよ、こっちの作業は終わったし乾かすのも時間がかかるから、それじゃあ行ってみようか」
アレックス先輩の妹さんを連れて、今も演劇部の衣装を編む上級生の女子生徒に声をかける。
「どうもこんにちは」
「こんにちは、どうかしたの」
「そのこの子が衣装作りに興味があるようでして」
「あらそうなの……?」
「はい、あのここにある衣装は全部あなたが?」
「卒業した人達が作ったのもあるから全部ではないけどね」
「わぁ……これあれですよね、去年文化祭の劇でやったロミオとジュリエットの衣装ですよね」
するとアレックス先輩の妹さんは興奮しながらハンガーラックにかけていた衣装に視線を送る。どうやら彼女が一番興味を持っていたのは衣装だったようだ。
「よく知ってるわね、そうその衣装は卒業した先輩数人と私が作ったのよ」
「あの……私も趣味で服を作っていて、よかったら見て欲しいんですけど……」
するとアレックス先輩の妹はスマミフォンを取り出す。
「いいわよ、私も他の人が作った衣装を見てみたいし」
そして二人はスマミフォンを見ていると途端に体育館が騒がしくなる。二人はまだ気付いてないようなので二人の邪魔をしないように扉を閉めて、体育館の壇上に行くと体育館の真ん中付近が他の運動部の男子生徒達が体育館に入ってきて騒ぎを起こしていたらしい。
「城田君」
「城田さん」
アレックス先輩と櫻木姫華も体育館の壇上に上がってくる。
「これは一体どういう事ですかアレックス先輩」
「いやぁ騒ぎが起きるとは思っていたが、まさかここまでとはねぇ」
アレックス先輩に質問していたら、いつの間にか王子道先輩まで壇上にいた。王子道先輩は騒ぎが起きた元凶を知っている様子だ。
「あ……彰人さーん」
そしてようやく理解した、この騒ぎの元凶である人物が壇上にいる俺を呼び手を振ってきたのだ。そして騒ぎを起こしていた運動部の男子生徒達も壇上に視線を送る。
「もしかして王子道先輩が言ってた俺でも知ってる特別ゲストって彼女の事ですか?」
「その通り、多分この高校でも知らない人はいないよね」
そして騒ぎを聞きつけた教師達によって、運動部の男子生徒達は体育館から追い出され、王子道先輩の指示によってまた演劇部に所属する同級生と上級生が集められる。
「えーそれでは紹介します。これからここの演劇部に通うことになった、アイセブンのメンバー湊心愛ちゃんです」
「まだまだ若輩者ですが、よろしくお願いします」
湊心愛の挨拶は演劇部に所属する男子生徒達から拍手喝采が起こる。だが女子生徒からは拍手しか起こらなかった。
 




